西王母せいおうぼ)” の例文
おれはこれから天上へ行って、西王母せいおうぼに御眼にかかって来るから、お前はその間ここに坐って、おれの帰るのを待っているがい。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
だが、貧しい学生のふところでは、思う存分バナナをたべることなどは、西王母せいおうぼの桃を腹一ぱい食うよりも、もっと、はかない望みだった。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
この藩の用人荒木頼母たのもの伜千之丞は、伝兵衛の推挙で先ごろ千倉屋へたずねて来て、澹山に西王母せいおうぼの大幅を頼んで行った。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それはえならぬ薫りと舌をとろかす甘みをもちながらしかも卑しい人肌の温みのない西王母せいおうぼの乳である。仙女の恵みの露はしんしんとして指の先までもしみわたる。
胆石 (新字新仮名) / 中勘助(著)
『山海経』に崑崙の西に玉山あり西王母せいおうぼ居る、〈西王そのかたち人のごとし、豹尾虎歯にして善く嘯く、蓬髪ほうはつ勝をいただく、これ天の厲(厲はわざわいなり)および五残(残殺の気なり)を司る〉。
西王母せいおうぼに頭の凹凸した桃のかいてあるは、その蟠桃のく上等なのです。支那の内地にはその種類に大層大きくって美味しくってそれこそ東方朔とうほうさくが盗んで逃げそうなのもあるそうです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「よし、思いついた。この春の雪の積んでいる時に、人間世界にどこに桃がある。ただ西王母せいおうぼはたけの中は、一年中草木がしぼまないから、もしかするとあるだろう。天上からぬすむがいいや。」
偸桃 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
西王母せいおうぼや、東方朔とうぼうさくといった仙人ならばいざ知らず、人の生命には限りがあるもの、いかに長命いたしたところで、七十か八十、そのうち、花の盛りといえば、たった二十余年、そのはかない人生で
斉広なりひろがいつものように、殿中でんちゅうの一間で煙草をくゆらせていると、西王母せいおうぼを描いた金襖きんぶすまが、静にいて、黒手くろで黄八丈きはちじょうに、黒の紋附もんつきの羽織を着た坊主が一人、うやうやしく、彼の前へ這って出た。
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あっけにとられた了哲を、例の西王母せいおうぼの金襖の前に残しながら。
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)