蟾蜍ひきがえる)” の例文
それには蜻蛉とんぼや、螇蚸ばったや、蝉や、蝸牛かたつむりや、蛙や、蟾蜍ひきがえるや、鳥や、その他の絵が何百となく、本物そっくりに、而も簡明にかかれてあった。
しかるにそのタニグクまたはタニククを、時に或いは「谷蟆」または「谷潜」などと書いたが為に、一般にこれは蟾蜍ひきがえるの事であると解している。
肉体!ああそれも私に遠く、過去の追憶にならうとしてゐる。私は老い、肉慾することの熱を無くした。墓と、石と、蟾蜍ひきがえるとが、地下で私を待つてるのだ。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
岩崩れがして凄じくのり出した崕の下をソッと通り抜けて明るみに出る、這いつくばった蟾蜍ひきがえるのような岩が二つ三つ重り合って、狭い谷の口を遮っている。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
蟾蜍ひきがえるの頭に魔法と医療上神効ありてふ蟾蜍石ブフォニットありなど(一七七六年版ペンナント『英国動物学ブリチシュ・ゾオロジー』三巻五頁)
蟾蜍ひきがえるに向って、美とは何ぞやと尋ねて見よ。蟾蜍は答えるに違いない。美とは、小さい頭から突出つきでた大きな二つの団栗眼どんぐりまなこと、広い平べったい口と、黄色い腹と褐色の背中とを
この竹藪には蟾蜍ひきがえるのいた事これまた気味悪いほどで、夏のゆうべまだ夜にならない中から、何十匹となくい出して来る蟾蜍に庭先は一面おおき転太石ごろたいしでも敷詰めたような有様になる。
君、なるほど火の芸術は厄介やっかいだ。しかしここに道はある。どうです、鵞鳥だからむずかしいので。蟾蜍ひきがえると改題してはどんなものでしょう。むかしから蟾蜍の鋳物は古い水滴すいてきなどにもある。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
博士はドンと尻餅しりもちをついて、蟾蜍ひきがえるのようにふくれた。
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
蟾蜍ひきがえるは廻って通る。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
蛇や蟾蜍ひきがえるが、鶏卵を伏せかえして生ずる所で、眼に大毒あり能く他の生物をにらみ殺す、古人これを猟った唯一の法は、毎人鏡を手にして向えば、彼の眼力鏡に映りて、その身を返り
泥濘ぬかるみの干潟をピョンピョン飛び廻っている生物がいた。最初私はそれを小さな蟾蜍ひきがえるか蛙だろうと思ったが、やっとのことで一匹つかまえて見ると、胸鰭が著しく発達した小魚である。
さうしてわずかばかりの物質——人骨や、歯や、かわらや——が、蟾蜍ひきがえると一緒に同棲どうせいして居る。そこには何もない。何物の生命も、意識も、名誉も。またその名誉について感じ得るであらう存在もない。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
ことに九州の或る地方には蟾蜍ひきがえるをドンク或いはドックウ・トンクワウなどというので、これただちにタニグクの古語の遺れるものだと合点して、蟾蜍すなわちタニグクだと極めてしまうのである。
いわゆる蛇は寸にしてその気ありだ。蟾蜍ひきがえるなど蛙類に進退きわまる時頭を以て敵を押し退けんとする性あり。コープ博士だったかかくてこの輩の頭に追々角がえる筈といったと覚える。
聞く所によると、東京のある場所では、菓子かし蟾蜍ひきがえる、虫、蜘蛛等のいやらしい物の形につくっているそうである。それは実に完全に出来ていて、ひるまずに食った人が勝負に勝つのだという。
梟は蛇や蟾蜍ひきがえるなど持ち来り予の前へさらけ出し誠に迷惑な事度々だった。