蕎麦切そばきり)” の例文
旧字:蕎麥切
「馬鹿ア言ってやがら、化物じゃあるめえし、一人で蕎麦切そばきり三十ぱいに笹屋のさばずしを四十五なんて、食える理窟があるもんか」
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「夕刻、七つ時分に、隠密の用談があって、本多民部左衛門、犬塚又内、松平主水の三人が見えられる。蕎麦切そばきりを出すから、用意をしておけ」
無惨やな (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
茶渋に蕎麦切そばきりからませた、遣放やりッぱなしな立膝で、お下りを這曳しょびいたらしい、さめた饂飩うどんを、くじゃくじゃとすする処——
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あっしがいつ腰を抜かしました。え? 親分。あっしはいつ怖いなんて言いました。辻斬や蕎麦切そばきりが怖かった日にゃ、江戸で御用聞が勤まりますかてんだ」
銭形平次捕物控:126 辻斬 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
彼方此方あっちこっち見て歩いている間に、前学期中老河原さんのところで度々蕎麦切そばきりの御馳走になったお礼にみさおさんへ何かお土産をと思いついて、コルクの草履を一足買った。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
珍しい名前も有るものと思っていると、佐渡島さどがしまでも蕎麦切そばきり味噌汁みそしるに入れたのを、やはりソバドヂョウと謂うそうであった。その形泥鰌どじょうに似たるためなるべしと『佐渡方言集』にはある。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
蕎麦切そばきり 六五・二二 一二・九七 — 二一・〇七 〇・二八 〇・四五
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
出府なされば、五六年はお目にかかれぬのだから、用談が終ったら、ゆるりと一献いっこん、酌もう。御馳走と申すほどのものもないが、道光庵仕込みの蕎麦切そばきりをお振舞いする。
無惨やな (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
またいつもかげかたちふやうな小笠原氏をがさはらしのゐなかつたのは、土地とち名物めいぶつとて、蕎麦切そばきり夕餉ゆふげ振舞ふるまひに、その用意ようい出向でむいたので、今頃いまごろは、して麺棒めんぼううでまくりをしてゐやうもれない。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)