おおい)” の例文
黒塗くろぬりのランドーのおおいを、秋の日の暖かきに、払い退けた、中には絹帽シルクハットが一つ、美しいくれないの日傘ひがさが一つ見えながら、両人の前を通り過ぎる。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その日、車のおおいには、ばらばらと白いあられが降った。——次の日、また次の日と、車のわだちは一路、官道を急ぎぬいて行く。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
桃色の絹のおおいを冠った、電気スタンドのやわらかい光が、ダブルベッドの純白の敷布を、催情的に色づけてもいました。
海賊等は昇降口の容易に開かれざるに、怒り狂い、足をあげておおいを蹴たり、されどおおいの表は滑かに、鉄の板一面に張られたれば、なかなか破るるものにあらず。
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
屋根のおおいもなく、両側の腰も浅く、革紐かわひもを十文字あやに懸けて、わずかに身を支える程度にとどめ、輿上よじょうながら、大剣をふるって敵と戦闘するに便ならしめてある。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
狼のゆるがごとき海賊の声のみいよいよ鋭くなりゆくに、余は気が気にあらず、いわゆるこわいもの見たさに、ふたたびそっと昇降口のおおいを開き、星影すごき甲板上を眺むるに
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
また猿の叫ぶがごとく罵り騒ぐは、ここ開けよ開けよと云うならん、開けては一大事なり、余は両手を伸ばし、死力を出して下よりおおいを押えおる、海賊等は上よりこれを引きはなさんとす。
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
満山の木々も染まるほど、やかた燎火にわびは燃えていた。——祝歌はながれて行く——町の民家も軒端軒端に、かがりをたいていた。祝歌につづく人馬や揺れかがやく輿のおおいは、その美しい焔の中を流れて行った。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)