蒸熱むしあつ)” の例文
行儀よく並んだ札が見る間に減つて、開放した室が刻々に蒸熱むしあつくなつた。智惠子の前に一枚、富江の前に一枚……頬と頬が觸れる許りに頭が集る。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
で、立騰たちのぼり、あふみだれる蚊遣かやりいきほひを、もののかずともしない工合ぐあひは、自若じじやくとして火山くわざん燒石やけいしひと歩行あるく、あしあかありのやう、と譬喩たとへおもふも、あゝ、蒸熱むしあつくてられぬ。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
自分の眼にはまづけむりこもつた、いや蒸熱むしあつい空気をとほして、薄暗い古風な大洋燈おほランプの下に、一場のすさまじい光景が幻影まぼろしの如く映つたので、中央の柱の傍に座を占めて居る一人の中老漢ちゆうおやぢ
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)