落伍らくご)” の例文
問題はこの多数の道連れの、歩みののろい人々をどうしようかである。まさに落伍らくごせんとする人々を、いかにして導いて行くかである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さかのぼって申せば音楽の天才の出た家筋ですが、京官から落伍らくごして地方にまで行った男の娘に、どうしてそんな上手じょうずが出て来たのでしょう。
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
『いつでも? 馬鹿な。御一同の出立はもう明後日あさって。それまでに支度が調わねば、面目ないが、落伍らくごするほかはない』
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから出家はただちに生活水準の低下というのではなくて、生きた政治面からの落伍らくごということであった。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
酸敗し老耄ろうもうした落伍らくご者ども、王党の若小な痴人ども、残忍と憎悪ぞうおとに満ちた忌むべき宣伝者ども、すべてそういう奴らが僕の行為を奪って、それを汚してしまうだろう。
わしの息子は、そんなこと位でへなへなと参ってしまうような奴ではない。女子おなごひとり位のために世の中から落伍らくごしてしまうような意気地無しを儂は生んだ覚えはないのだ!
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
観音崎かんのんざきの燈台、浦賀、横須賀よこすかなどの燈台や燈火が痛そうにまたたいているだけであった。しけのにおいがやみの中を漂っていた。落伍らくごした雲の一団が全速力で追っかけていた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
その明かるみの下を一群ひとむれの鳥が西の方へ飛んでいつた。一羽遅れた鳥が、落伍らくごしまいとして、一生懸命に追ひすがつてゆくのが見られた。そしてすぐ見えなくなつてしまつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
こうして一人また一人と落伍らくごしてゆき、ついには誰も寄りつかなくなったのであるが、或るとき一人の若い水夫が、勤務ちゅうにとつぜん血が騒ぎだし、船が篠咲に着くなりとびおりて
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
梅干うめぼし幾樽、沢庵たくあん幾樽、寝具類幾行李こり——種々な荷物が送られた。御直参氏たちは三河島の菜漬なづけがなければ困るという連中であるから、行くとすぐに一人ずつ一人ずつ落伍らくごして帰って来てしまった。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
けれども、この辺で懐中心細くなり、落伍らくごする者もある。
禁酒の心 (新字新仮名) / 太宰治(著)
暗涙をのんで愁然しゅうぜんとした独りごと——「傷はとにかく、あの男の気性として、ここまで来ながら落伍らくごしては、さだめし、それが無念にたえまい。ああ遺憾至極いかんしごく
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生涯しょうがい憂苦の連続であるこのあわれな落伍らくご者を見ながら、わが友よ、私はこう考えたのです。
これをやめて地方官の落伍らくご者の一人で、京で軽蔑けいべつされる人間にこの上なっては親の名誉を恥ずかしめることだと悲しくて出家したがね、京を出たのが世の中を捨てる門出だったと
源氏物語:18 松風 (新字新仮名) / 紫式部(著)
彼はその時代の創作家としては落伍らくごしたものといわれても仕方がないのである。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
成功しないのが間違いであるか至当であるか、そんなことはもう彼女には問題でなかった。落伍らくご者と才能者とを区別するものは結局成功のいかんであると、信ずるようになっていた。
とまた口惜くやしまれるのは万吉の落伍らくご
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
フリーデマンの仲間でさらに下らない曖昧あいまい落伍らくご者どもといっしょに、二人がいつも相並んで食卓についてるのが見られた。連中は賭博とばくをし、駄弁だべんを弄し、幾晩もぶっとおしに酒を飲んだ。