華美はなやか)” の例文
ああ、その瀑布の轟き——華美はなやか邪魁グロテスクな夢は、まさにいかなる理法をもってしても律し得ようのない、変畸狂態のきわみではないか。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
あの華美はなやかだった部屋だというのか。熊の毛皮を打ち掛けた黒檀こくたん牀几しょうぎはどこへ行った。夜昼絶えず燃えていた銀の香炉もないではないか。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
華美はなやかな前途はもう彼の前によこたわっていなかった。何かに付けてうしろを振り返りがちな彼と対坐たいざしている健三は、自分の進んで行くべき生活の方向から逆に引き戻されるような気がした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
昨日きのふまでは經廻へめぐ旅路たびいくときたのしきときかたらふひととては一人ひとりもなく、あした明星めうぜうすゞしきひかりのぞみ、ゆふべ晩照ゆふやけ華美はなやかなる景色けしきながむるにもたゞ一人ひとりわれ吾心わがこゝろなぐさむるのみであつたが
隣室へ通う三つの戸口へこればかりは華美はなやかな物として垂れ掛けた金襴きんらんの垂れぎぬ等を、幻想の国のお伽噺とぎばなしのように、模糊髣髴もこほうふつと浮き出させている。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あざけるように叫び出したのは充分多四郎の甘言によって江戸の華美はなやかさを植え付けられた彼女山吹に他ならなかった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
黒の垂れ布を一つ隔てた、ここ、後房の有様は、陰惨たる前房とは似ても似つかぬ、愉快な華美はなやかなものであった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ちゅうされてない今は御獄冠者の居間として、華美はなやかであった装飾など総て一切取り去られ、いかにも武将の住居すまい場所らしく、弓矢鉄砲刀鎗によって、さもいかめしく装われている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いいえ江戸は美しい人達の華美はなやかに遊びくらしている極楽だということでござります!」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と戸が内側へ音もなく開き、華美はなやかな女部屋が現われた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)