ゆで)” の例文
全く思いがけないもので何だかわたくしの身体に融け入って来るなごやかなものがありながら、それはもう父のゆでり枯しのかす
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ゆで玉子の奇妙な、気持の悪い臭気があたりに充ちていたが、これはこの地に多い硫黄いおう温泉から立ち上るものである。
蓑笠みのかさの人が桑をになって忙がしそうに通る、馬が桑を重そうに積んでゆく。その桑はむしろにつつんであるが、柔かそうな青い葉はゆでられたようにぐったりと湿れている。
磯部の若葉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
皿とざるにもられていた一ツのゆで卵も、一と切れの豚肉の油煮も残っていなかった。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
お湯からゆでるとゆでダコの赤いのにならないとか、なるとか。その汁が松の木の緑を深めるというので野原の小父さまが御存命中、わざわざタコを買ってその汁をかけたとか、そんな話をしながら。
其麽そんなものしほでゞもゆでてやれ」勘次かんじにはか呶鳴どなつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
どこからかそら豆をゆでる青い匂がした。古風な紅白の棒の看板を立てた理髪店がある。妖艶な柳が地上にとどくまで枝垂しだれている。それから五六軒置いてさびちた洋館作りの写真館が在る。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
鸚鵡おうむ返しにこんな挨拶をしながら、薬局生はうずたかい柚を掻きわけて流し場へ出た。それから水船みずぶねのそばへたくさんの小桶をならべて、真赤まっかゆでられた胸や手足を石鹸の白い泡に埋めていた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
どこからかそら豆をゆでる青いにおいがした。古風な紅白の棒の看板を立てた理髪店りはつてんがある。妖艶ようえんやなぎが地上にとどくまで枝垂しだれている。それから五六けん置いてさびちた洋館作りの写真館が在る。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)