茴香ういきょう)” の例文
さあ連理草スウィート・ピイ(レイアティズに)、別れってこと、それから三色菫パンジイ、これは物思いの花よ。あなたには茴香ういきょう(王に)それから小田巻。
オフェリヤ殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
空からは、静かな冷気が下りてきて、野菜ばたけからは、茴香ういきょうかおりが漂ってきた。わたしは、何本かの並木道なみきみちをすっかり歩いてしまった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「おおこれが茴香ういきょうか。ふうむ、実に見事なものだ。茴香といえば高価な薬草、さすが大槻玄卿殿は、当代名誉の大医だけあって、立派な薬草園を持っておられる」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこで適当にジアールを飲んでおいて、給仕にアブサントを持ってこさせ、茴香ういきょうとサフランの香に悩みながら、あおりつけあおりつけしているうちに、まもなく混沌となった。
予言 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
あらゆる草のかおり、濃いソース、実質に富んだポタージュ、模範的なスープ肉、すばらしいこいけ菜、鵞鳥がちょう、手製の菓子、茴香ういきょうとキメンとのはいってるパン、などがあった。
茯苓ぶくりょう肉桂にっけい枳穀きこく山査子さんざし呉茱萸ごしゅゆ川芎せんきゅう知母ちぼ人参にんじん茴香ういきょう天門冬てんもんとう芥子からし、イモント、フナハラ、ジキタリス——幾百千種とも数知れぬ薬草の繁る中を、八幡やわた知らずにさ迷い歩いた末
ベッシェール夫人はほの/″\とした茴香ういきょうの匂の中で、すっかり酔って居る。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それは、そうしてすっかり身体を冷え切らせておいてから、大きなさかずきでヴォトカをぐいとやるためなのだ。それから塩漬けの茸か茴香ういきょう漬けの胡瓜をちょっとつまんで、またもう一杯ぐっとやる。
富籤 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
紺と白とのつばめ骨牌カルタの女王の手に持った黄色い草花、首の赤いほたる、ああ屋上庭園の青い薄明、紫の弧燈にまつわる雪のような白い蛾、小網町こあみちょうの鴻の巣で賞美した金粉酒オウドヴィドダンジックのちらちら、植物園の茴香ういきょうの花
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
茴香ういきょうの実を吹落ふきおと夕嵐ゆうあらし 来
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
茴香ういきょうの花が咲いているのだ。そうしてもしも俺が死んだら、その茴香の肥料こやしになるのだ。……死! 肥料! 恐ろしいことだ! これはどうしても逃げなければならない。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おや、茴香ういきょうの匂いがするよ。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
……まず二、三人の男の手が、彼を宙へき上げた。……縁から庭へ下ろされたらしい。……穴を掘るような音がした。……と、提灯ちょうちんの灯が見えた。……茴香ういきょう畑が見えて来た。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
石榴ざくろ石から花が咲いて、その花の芯は茴香ういきょう色で、そうして花弁は瑪瑙めのう色で、でもその茎は蛋白石の、寂しい色をして居ります。そういう花も見られましょう。……そこは異国でございました。
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)