艶美えんび)” の例文
色鍋島の絢爛けんらん艶美えんび彫琢ちょうたくと若々しい光彩のみなぎった名品が、この老いほうけた久米一の指から生れて、他の若い細工人さいくにんの手からは作り得なかった。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後に残した華やかな客間を、心の中で唾棄だきした。夫人の艶美えんびな微笑もみつのような言葉も、今はくうの空なることを知った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
実際にその咲いている花に対せば淡粧たんしょう美人のごとく、実にその艶美えんび感得かんとくせねばかない的のものである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
揺るぎ無い御代みよは枝を吹く風のも静かに明け暮れて、徳川の深い流れに根をひたした江戸文明の巨木には、豪華艶美えんびを極めた花房はなぶさが、今をさかりに咲き盛かり
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
しかるに先刻はからずも鼻子の訪問を受けて、余所よそながらその談話を拝聴し、その令嬢の艶美えんびを想像し、またその富貴ふうき、権勢を思い浮べて見ると、猫ながら安閑として椽側えんがわに寝転んでいられなくなった。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
湯上りらしく、その顔は、白絹か何かのように艶々つやつやしく輝いていた。縮緬ちりめん桔梗ききょうの模様の浴衣ゆかたが、そのスッキリとした身体の輪廓りんかくを、艶美えんびに描き出していた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
華やかな艶美えんびな微笑だった。そう云われると、信一郎はそれ以上、かれこれ言うことは出来なかった。かくなぞの品物が思ったより容易に、持主に返されることを、よろこぶより外はなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)