色悪いろあく)” の例文
かれが天性の色の白さもきわだつのであるが、こう見くらべたところ、お十夜の色悪いろあくな、一角の魁偉かいいな、周馬のにきびだらけの面相などとは
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ああ、どうして、梶原という役は、あれで色悪いろあくにはなっているが、ほんとうはなかなか腹のある奴だから、わりふられたって怒るがものはねえや」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ええ、そりゃありますとも。追分唄いの甚三馬子だの、宿場女郎のお北だの、あくどい色悪いろあくの富士甚内だの。……」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
万次——弱そうな色悪いろあくの万次は、胴ぶるいしながらこんなことを言うのでした。よくよくお滝にはりた様子です。
この扇ひとつでも何かその人らしい色悪いろあくらしい姿が浮かび上がってくるから妙である。さらに「先生は下戸でいらっしゃるから、金玉糖を詰めて腐らん様に致して」
三十前からつなでは行かぬ恐ろしの腕と戻橋もどりばしの狂言以来かげの仇名あだな小百合さゆりと呼ばれあれと言えばうなずかぬ者のない名代なだい色悪いろあく変ると言うは世より心不めでたし不めでたし
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
しかしその一心に剃刀を磨ぐ振りをしている色悪いろあくジミた横頬の冴えよう。……人間の顔というものは、心の置き方一つでこうも変るものかと思いながら鏡越しに凝視していた。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
自分があの色悪いろあくと縁が切れて、じぶんをどう生かしてゆこうと自分の勝手になってきたのはうれしかったが、それでも、あの磯五ともう戦うことがなくなり、それに、今後じぶんは
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
とにかく権太は菊五郎が一世に名をほしいままにせる色悪いろあくを代表すべきほどのものにて、燕翁えんおうが三代目菊五郎の権太はやや意気に過ぎて、この役は五代目の方かえりて幸四郎に近きが如しといひしは
そうすれア人の噂も七十五日。いつかは消えてしまうのに。あの悪婆にそそのかされて。馬鹿ナ……。とんだことをやらかしたのだ。全体あの仕事はあいつの体にない役だ。一体色悪いろあくというよりは。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
美しいお嬢様なり、姫君なりを連れての道行みちゆきではなかったし、あの男自身も、美男で色悪いろあくな若侍とは言えまい。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかしそれは、何だか色悪いろあくに引っかかったのがうれしくて泣いているような気がした。泣きながら、磯五とお高がまたいっしょになるだろうかとおもうと、嫉妬が芽ばんでくるのを押え得なかった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
何とも云へないその色悪いろあくらしい、心憎いほどの巧さ。
吉原百人斬り (新字旧仮名) / 正岡容(著)
「そうなると兄貴と俺とたてを突くようなもんだな、兄貴を向うに廻して、俺が色悪いろあくを買って出るようなものだ」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
色悪いろあくとしての磯五の正体をむいたものであった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
評判の色悪いろあく公卿くげさんに籠絡ろうらくされてしまって、今はそのおめかけさん同様に暮らしているとか、聞きたがらない当人の耳へ、わざとするように苦々しいものがひっかかる。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)