臍繰へそくり)” の例文
船を作ろうとして、シリンドルと、シャフトを鋳造したいと申したら、久光が、由羅の臍繰へそくりから、捲上げて来てくれた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
臍繰へそくりを盜んで口をぬぐつて居ようなんて、そんなことの出來る金五郎でないことは、この俺が一番よく知つて居るんだ。
しかし一方に養母おふくろが、芝居と、信心と、寝酒の道楽を初めて、死んだ金兵衛の伝でグングン臍繰へそくりをカスリ取る上に、良い縁談をみんな断ってしまうので
近眼芸妓と迷宮事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いつも母親に泣き付いて臍繰へそくりを融通して貰うのだと聞いている、が、それも母親の在生中だけで、彼女に万一のことがあったら、必ず長兄はそんな贅沢ぜいたくをさせてはおくまい
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
すそ曳摺ひきずりて奥様おくさまといへど、女はついに女なり当世たうせい臍繰へそくり要訣えうけついわく出るに酒入さけいつてもさけ、つく/\良人やど酒浸さけびたして愛想あいそうきる事もございますれど、其代そのかはりの一とくには月々つき/\遣払つかひはらひに
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
それもその筈で、印度のやうに何時でも花のある土地では、蜜の臍繰へそくりを拵へておく必要も無かつたのだ。蜜蜂飼養家は大事な蜂を失つた代りに、幾らか賢くなつて郷土くにへ帰つて来た。
親父おやじが額に汗を出した記念だとかあるいは婆さんの臍繰へそくりだとか中には因縁付いんねんつきの悪い金もありましょうけれども、とにかく何らか人のためにした符徴ふちょう、人のためにしてやったその報酬というものが
道楽と職業 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
臍繰へそくりを盗んで口をぬぐっていようなんて、そんなことの出来る金五郎でないことは、この俺が一番よく知っているんだ。
十五になって高等小学校を出ると直ぐに紺飛白こんがすりの筒ッポを着て、母様かかさん臍繰へそくりをば仏壇の引出から掴み出いて、柳町へ走って行きましたが、可愛がられましたなあ。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
箪笥といふものは、博士のうちにあつても、俥夫くるまやうちにあつても感心な程腹の太いもので、亭主の秘密ないしよも、女房の臍繰へそくりも、流行品も流行後れも同じやうに飲み込んで、ちつとも厭な顔を見せない。
仁三郎の臍繰へそくり——そんなものが若しあつたとしたら、ろくにかぎぢやうもない、仁三郎の部屋へ忍び込んで、何とかしてるのが本當で、賽錢箱さいせんばこの上に登らなければ取れない鈴の緒を引千切つて
仁三郎の臍繰へそくり——そんなものがもしあったとしたら、ろくに鍵も錠もない、仁三郎の部屋へ忍び込んで、何とかしてるのが本当で、賽銭箱の上に登らなければ取れない鈴の緒を引き千切って
「いや、相變らず元氣で、臍繰へそくりの溜まるのばかり樂しみにして居るよ」
漁師の申松さるまつが住んで居て、中の一軒は空家だ、その空家にはお化けが出るといふ噂があつて、この一年借り手が無い、——昔々、一人者の婆さんが、臍繰へそくりを五貫六百ばかり殘して死んだ相だから