腹鼓はらつづみ)” の例文
世にたぬき腹鼓はらつづみと伝うる怪談があるも、深更になると遠方の物音が手近く聞こゆるから、山寺の木魚の音などを誤って狸の腹鼓とすることが多い。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
人をばかすとか、腹鼓はらつづみを打つとかいう特有の芸能を見る人は見る人として、犬族としては珍しく水に潜り、木にのぼる芸当を持っているということを学者は珍重する。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どうも人騒がせでいけねえ。それも辺鄙へんぴな田舎なら、狐が化けようが狸が腹鼓はらつづみを打とうがいっさいお構いなしだが、東海道の入口でそんな噂が立つのはおだやかでねえ。
半七捕物帳:52 妖狐伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
見越みこし、河太郎、かわうそに、海坊主、天守におさかべ、化猫は赤手拭あかてぬぐい篠田しのだくずの葉、野干平やかんべい、古狸の腹鼓はらつづみ、ポコポン、ポコポン、コリャ、ポンポコポン、笛に雨を呼び、酒買小僧、鉄漿着女かねつけおんな
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
狸は大方腹鼓はらつづみたたき過ぎて、胃の位置が顛倒てんどうしたんだ。君とおれは、いっしょに、祝勝会へ出てさ、いっしょに高知のぴかぴかおどりを見てさ、いっしょに喧嘩をとめにはいったんじゃないか。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おばけは、日本の古典文学のすいである。きつねの嫁入り。たぬき腹鼓はらつづみ。この種の伝統だけは、いまもなお、生彩を放って居る。ちっとも古くない。女の幽霊は、日本文学のサンボルである。植物的である。
古典竜頭蛇尾 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ようやく近づき見れば、一頭の老貉ろうかくが月に向かって腹鼓はらつづみを鳴らしている。与三はたちまち一石を拾って投げたれば、その石まさしく貉の背部にあたった。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
第四種(鳥獣編)妖鳥、怪獣、魚虫、火鳥、雷獣、老狐ろうこ九尾狐きゅうびのきつね白狐びゃっこ古狸ふるだぬき腹鼓はらつづみ妖獺ようだつ猫又ねこまた天狗てんぐ
妖怪学講義:02 緒言 (新字新仮名) / 井上円了(著)
その一例は羽前うぜんの庄内の町にて、毎夜深更になると狸の腹鼓はらつづみの音がするとて、騒ぎ立てしことがあるに、よくよくただしてみれば、鍛冶かじ屋のふいごの音であったということじゃ。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
紀州牟婁むろ郡の某村にては、深更になると、はるかに鼓声の響きがする。これをその地のものはたぬき腹鼓はらつづみと称し、狸の遊戯のごとくに思い、別に怪しみもせず、また恐れもせぬ。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
怪音のうちにて最も評判の高きものはたぬき腹鼓はらつづみであるが、そのことは前に述べておいた。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
たぬき腹鼓はらつづみであると断定した話がある。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)