“能（で）” の例文
自然がわれ等に啓示する神の思想や愛を、労働のあらゆる刹那、十五分の休みに、冷たい水のやうに心地よくわれ等は飲み込むことが能（で）きる。
工場の窓より (新字旧仮名) ／ 葉山嘉樹(著)
あんな悪漢と、悪霊との巣窟に犯人を収容して、いかにして、その改善を期待することが能（で）きよう！　犯罪人とて、必ずしも悪人とは限らない。
霊訓 (新字新仮名) ／ ウィリアム・ステイントン・モーゼス(著)
「芋掘（いもほり）も忌（いや）だが、鉱掘（かねほり）も忌だねえ。どうせ楽は能（で）きないのさ。こんな商売になっちゃア仕様がないよ。好（すき）なお酒でも飲んで紛（まぎ）らしているのさ。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) ／ 岡本綺堂(著)
其の証拠には、愈々（いよいよ）突きつめた場合になって、男は意気地が無い程早く折れますが、女は然う云ふ場合に徹頭徹尾自分の強さを示す事の能（で）きるものです。
新らしき婦人の男性観 (新字旧仮名) ／ 伊藤野枝(著)
不思議のローマンチックに自分は蘇生（よみがえ）って、復（また）も真昼の暖かい路（みち）を曲りまがって往（い）く……、しかし一ぺん囚（とら）われた幻影から、ドウしても私は離れることは能（で）きない
菜の花物語 (新字新仮名) ／ 児玉花外(著)
その公道を体験したるものは伝道することが能（で）きる。いな、伝道せずにはいられないであろう。キリストなどはそうであったろうと思われる。私は伝道を尊重する。
愛と認識との出発 (新字新仮名) ／ 倉田百三(著)
もう斯（こ）うなれば騎虎（きこ）の勢いで、今更後（あと）へは引返（ひっかえ）されぬ。巡査も頬に打撲傷を受けながら、猶（なお）も二三間（げん）進んで行くと、天井は少しく高くなって、初めて真直（まっすぐ）に立つことが能（で）きた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) ／ 岡本綺堂(著)