縮緬皺ちりめんじわ)” の例文
絶え間なく動く縮緬皺ちりめんじわとなつて見え、そこに素晴しい高さの岩がによつきりとあたかも河を受とめた工合に立つてゐた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
それは卑劣と思えるほど小器用でわきの下がこそばゆくなる。酢の面に縮緬皺ちりめんじわのようなさざなみか果てしもなく立つ。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
眉の跡も青さを失つて、やゝ縮緬皺ちりめんじわの目につく年輩ですが、顏の道具はまことに端正で、細つそりした後ろ姿などは、病的に見えるほど弱々しいものがあります。
くびから肩へかけての肉にたるみがあって、顔にも縮緬皺ちりめんじわが一面にあるにはあるけれども、はだが抜ける程真っ白なので、遠目ではそう云う皺やたるみがよく分らず
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「——綺麗ねえ」美佐子も照れ隠しのような口調だった。風らしいものは感じられないのに、池には縮緬皺ちりめんじわのような小波が立っているらしく、倒影が細く揺れている。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
みきった天心に、皎々こうこうたる銀盤ぎんばんが一つ、ぽかッとうかび、水波渺茫すいはびょうぼうかすんでいるあたりから、すぐ眼の前までの一帯の海が、限りない縮緬皺ちりめんじわをよせ、洋上一面に、金光が
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
待っていると言うたとて、ほかの者が待っているはずはない、先代ゆずりの、お絹という肌ざわりの相当練り上げられたのが、縮緬皺ちりめんじわをのばして待っているくらいのもの。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
だからカイラギから高台までの鉋の跡は何処までもちぢれてゆくのが当然だ。言う通り箆で削った後の地肌というものは、非常に荒っぽく、ザラザラの所謂縮緬皺ちりめんじわとなっている。
古器観道楽 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
山家のならわしとして冬至には蕗味噌ふきみそ南瓜とうなすを祝います。幸い秋から残して置いた縮緬皺ちりめんじわのが有ましたから、それを流許ながしもとで用意しておりますと、花火の上る音がポンポン聞える。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
遠くから望むと、いかにも水々しく若やいで居た血色のいゝ両頬には、胸をむかむかさせる濃い白粉おしろい頬紅ほゝべにとがペンキのようにってあった。ところ/″\にこまかい縮緬皺ちりめんじわが寄って居る。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この縮緬皺ちりめんじわの寄りそうになった年増女は妖艶ではあるだろうが、厚塗にした白粉おしろいも、唇一パイにさした紅も、大袈裟な表情も、こびをまき散らす肢体も、岩太郎の眼には急に嫌らしく、汚らわしく
銭形平次捕物控:245 春宵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
木立という木立で蝉が勇ましく鳴き立て、空気に縮緬皺ちりめんじわでも寄るかとさえ思いました。眩しく光る葭原よしはらの中からよしきりが皮膚をつねるような鳴き声を立てゝ、快活に葭から出たり入ったりしています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)