絵馬えま)” の例文
旧字:繪馬
後で聞くと、昌さんは例の正代の母親にあたる白痴が来ると、ひる間でも近くのやしろ絵馬えまなんかのある建物の中に二人で寝るという。
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
と言いながら、例の絵馬えまをパリパリと引裂いて、炉の中に投げ込んでしまいますと、絵具のせいか、火が血のような色をして燃え立ちました。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ところがひとりのおばあさん、元気なものだ。歓喜天かんぎてんさまのお宮の絵馬えまを引ッぺがして、ドンドン焚火たきびをしてあたっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
または寺の多い裏町の角なぞに立っている小さなほこらやまたあまざらしのままなる石地蔵いしじぞうには今もって必ず願掛がんがけ絵馬えまや奉納の手拭てぬぐい、或時は線香なぞが上げてある。
耳の病を祈るしるしとして幾本かの鋭いきりを編み合わせたもの、女の乳しぼるさまを小額の絵馬えまに描いたもの、あるいは長い女の髪を切って麻のに結びささげてあるもの
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かまどの神は馬でありもしくは馬に乗ってくるというので、新しい馬の沓を上げていた根原は、おそらく絵馬えまなども同様に、これを召しておわしませ、これを召して立たせたまえと
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それを絵馬えまにうつして、神仏の御前に奉納するというのは、全く例のないことで、そうして、いたずらとしても無下むげ、非礼としてもこの上もない仕事であります。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
鳩の飛ぶのを眺めたり額堂がくどう絵馬えまを見たりしたならば、何思うともなく唯茫然として、容易たやすくこの堪えがたき時間を消費する事が出来はせまいかと考えるからである。
隙があったら眼の前の池に飛びこんで、堂の棟に上がっている絵馬えまのように、楊柳の幹を巻いて、のろう男を呑まんとしている蛇身になっても——と思うが、それも出来なかった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
町並になっている狭い間口の一方を、少しばかり道場構えにして、一方の畳の上ではしらが頭の一人の爺さんが、絵馬えまの中にうずまって、しきりに絵馬をかいている。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
盆莚ぼんござをしいたり、女をかどわかしてきたり、果ては、絵馬えまや、御神体までかつぎだしてしまうけれど、辻堂は依然として存立し、草ぶき屋根のちるまで、道のの神としての功力くりきを少しも失わない。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのお堂の中に納めてあった絵馬えまが、こんなところへ来ていたりする因縁いんねんが、よくわかりましたよ。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
『いずれ又会おう。急用のできた場合は、毘沙門堂びしゃもんどうの例の額堂がくどう、あそこの北の柱へ、釘で目印をつけておく。書物かきものは、その額堂の絵馬えまのどれかの裏へ隠しておくから、時々、柱の目印を見に来てくれ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その証拠には美々しく装い飾った馬の背に、素敵に大きな馬を描いた絵馬えまがのせてあります。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「江戸へ行って居所が知れたら、神田の明神様へ額を納めておいてくれ、めの字を書いた絵馬えまを一枚、そのうらへ処番地を書いて、お堂の隅っこへ抛り込んでおいてくれ、訪ねて行くから」