わた)” の例文
巨勢はわたの如き少女が肩に、我かしらを持たせ、ただ夢のここちしてその姿を見たりしが、かの凱旋門がいせんもん上の女神バワリアまた胸に浮びぬ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
白いわたのように飛んで、室を目がけて、夕日に光る障子に、羽影をひらめかせる、風が死んで楊の葉はそよとも動かない。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
と、見ると、黒いわたのような煙の中に怪物の姿があって、それがんがった牙のようなくちと長い爪を見せて、穴から一人の者をさらって煙に乗って空にのぼろうとした。
嬌娜 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「久しく修業を積んでいますから、心は地に落ちたるわたの如くでござる」と、僧は答えた。
すぐに桃色のたすきを出して、袂を投げてくぐらした。惜気の無い二の腕あたり、柳のわたの散るよと見えて、井戸縄が走ったと思うと、金盥へ入れた硯の上へさっとかかる、水が紫に、墨が散った。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日のあたる築地のもとにわたふかき御形が咲きてうれしき御寺
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
さて絹の糸、絹のわた、おのがじし
君やわたなす花ならめ
佐藤春夫詩集 (旧字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
その梢に、一面のほうけたわたが、風もないのに、氷でも解けるように、はらり、はらりと、落ち散るのであった。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
夏ごとに出水に水漬みづ河楊かはやなぎわた白うして老いにけるかも
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
白々しろ/″\つゆかるく……やなぎわた風情ふぜい
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
印旛沼家居とぼしき沼尻ぬじりにも老木の楊わた深みつつ
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ほうつほうつとやなぎわたが飛ぶわいの
第二海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
風吹けばわたの柳や。
第二海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)