もつ)” の例文
色々な考えにちいさな心を今さらあらたもつれさせながら、眼ばかりは見るもののあても無いそらをじっと見ていた源三は、ふっとなんとりだか分らない禽の
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
レーノォは熱心な科学の徒弟だが、同時に、すごい浪費をやる道楽者でもあって、女友達関係のもつれで、絶えず問題を起しているような男だった。
悪の花束 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ところが、湯舟沢村のものから不服が出て、その結果は福島の役所にまで持ち出されるほどもつれたのである。二人の百姓総代は峠村からも馬籠の下町からも福島に呼び出された。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
毎日喧嘩ばかりしてゐるといひながら、矢張り亭主がくるとかつらを直してやつたり、つくつた顏を見直してやつたりしてゐた。今度の給金の事でよく小山ともつれあつてゐたのもこの早子だつた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
太刀を取り直すいとまもない、伊集院夢中で柄を上げた。柄を切られてバラバラバラ、糸がもつれて目釘が外れ、刀身向こうへ飛んだ隙に、辛くも遁がれて横っ飛び、露路へ姿をくらませてしまった。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
信濃の武田四郎勝頼が、穴山梅雪との契約をふいにして、娘を信豊にやったもつれから、武田と穴山が不和になり、来年の正月匆々、勝頼父子は諏訪の上原あたりへ押出す。
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
従容しょうようとしてせまらず、晏如あんじょとしておそれず、偉なるかな、偉なる哉。皇太孫允炆いんぶん、宜しく大位に登るべし、と云えるは、一げんや鉄の鋳られたるがごとし。衆論の糸のもつるゝを防ぐ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)