紙衣かみこ)” の例文
反古ほごはそばから紙衣かみこや何かに使ってしまい、残っている物といえば、もとの草庵の壁やら襖紙ふすまった古反古ふるほごがあるぐらいでしかございませぬ
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、上人の俳画は勿論祖師でもなんでもないから、更に紙衣かみこなんぞは着てゐない。皆この頃の寒空を知らないやうに、立派りつぱな表装を着用してゐる。
俳画展覧会を観て (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その時の私はさびしい紙衣かみこ姿であったろうが、それは家庭のこと、妓のこと、精神的不如意のためのアルコール中毒ゆえで、心境さえよくなったら
わが寄席青春録 (新字新仮名) / 正岡容(著)
だが——いやに思わせぶりっていうわけで、有難いような、嬉しいような——百貫めの借銭負うて、紙衣かみこ着た伊左衛門じゃないが、昔をいやに思いださせるね。
卒塔婆そとば紙衣かみこを着てまよい出たような、人間三に化け物七が、たまらなくよくなるのかも知れません。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
今宵こよいだけでも大みそかの火宅かたくからのがれる事が出来ると地獄で仏の思い、紙衣かみこしわをのばして、かさは無いか、足袋は無いか、押入れに首をつっ込んで、がらくたを引出し
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その頃、紙衣かみこの神主達の行列は町からかなりはなれた河向ふの路をぞろぞろ歩いてゐた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
美的修飾は贅沢のいいに非ず、破袴弊衣はこへいいも配合と調和によりては縮緬よりも友禅ゆうぜんよりも美なる事あり。名古屋山三なごやさんざ濡燕ぬれつばめの縫ひは美にして伊左衛門の紙衣かみこは美ならずとはいひ難し。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
笠は長途の雨にほころび、紙衣かみこはとまり/\のあらしにもめたり。わびつくしたるわび人、我さへあはれにおぼえける。むかし狂歌の才士此国このくににたどりしさまを不図ふとおもひいで申侍もうしはべる。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
それから句仏上人くぶつしやうにんが、画をかせてもやはり器用なのに敬服した。上人は「勿体もたいなや祖師そし紙衣かみこの五十年」
俳画展覧会を観て (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)