秘密ないしょ)” の例文
旧字:祕密
薬嫌いで医者がくれた薬さえ二度に一度は秘密ないしょてたほどなのに、今の場合父の常用の消化薬をさえ手頼りにする気になった。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
あまり風体ふうていのよくない、そんな男の出入りすることは、浅井には快くはなかったが、お増は浅井に秘密ないしょで、時々お雪に小遣いなどを貸していた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ずっと前、南支那海で海賊船がノサバッた時に、万一の場合をおもんぱかって、何度も何度も秘密ないしょで研究して、手加減をチャント呑込んでいたんだから訳はない。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ほんとだとも、正月のころよ、旦那がお蔵へ往ってる時に、杉本さんが来て、奥さんのへやへ入って、秘密ないしょばなしをして、二人で笑ったりなんかしてたよ」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
金は少し余計掛るけれども、この薬舗やくほから駐蔵大臣の下僕らに特別に頼めば秘密ないしょで持って行ってくれましょう。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
この貞子が世間に秘密ないしょで正木某から少からぬ金を借りた、その縁故で正木は千代子が成長するに連れて「窮行女学院」に入学させて、貞子にその教育を頼んだ。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
「このお侍さんを隠匿っておくれ、村の者へも陣十郎さんへも、誰にも秘密ないしょで隠匿っておくれ、昔馴染みのお前さんのとこより、他には隠し場所がないんだからねえ」
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
濃いけれど柔かい地蔵眉じぞうまゆのお宮をば大事な秘密ないしょの楽しみにして思っていたものを、根性の悪い柳沢の嫉妬心しっとしんから、霊魂たましいの安息する棲家すみかを引っきまわされて、汚されたと思えば
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
妾が今夜来たことやらかげで清をばいたわることは、我夫へは当分秘密ないしょにして。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
乳母ばあやには秘密ないしょですぜ」
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
で、そのお婆さんは何か私に秘密ないしょで言いたいような素振そぶりが見えますが他の二人の男をはばかって居るらしい。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
その写真はやっぱり看護婦仲間の噂から手繰たぐり出したのさ。アノ恵比須通りの写真屋には、大学の看護婦がよく行くからね。二人で秘密ないしょで撮ったのを見るかドウかしたんだろう。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
氷や水菓子を、叔父に秘密ないしょでちょくちょくお庄に取りに走らせた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
秘密ないしょの話か」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「どうも横浜はまじゃ、警察がわーがしたからね。つい秘密ないしょにしちゃったんで……」
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ちょっとそこまでならいいでしょう。子供さんに秘密ないしょで……。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
われもわれもと秘密ないしょの頼みじゃ。這入る患者は政治家、学者。軍事探偵、大発明家。富豪、名家の跡取り世取り。又は名優スターの類だよ。他人の野心や不正の利得や。又は秘密の計画事業の。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)