秋霜しゅうそう)” の例文
剣という秋霜しゅうそうの気が、その人の全部かのように荊々とげとげしく思われて来たが、彼の仮名文字かなもじをようく見つめているとわかる。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俳句季寄きよせの書には秋霜しゅうそうの題を設くといへども、その作例は殆んど見るなし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
また、その大塔ノ宮が一山の僧兵を指揮する秋霜しゅうそう烈日ぶりや、ご自身も朝夕に、太刀薙刀なぎなたの猛訓練に一心不乱なお姿には、皆こういって舌をまいた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが自分への叱責しっせきであった事は温かい慈愛のそうの中に秋霜しゅうそうのようなきびしい素振りを時々見せたのでも考えられた。
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
政所まんどころの灯もあかつきを知らなかった。そして須臾しゅゆのまに、鎌倉の府も、海道口も、日々秋霜しゅうそうの軍馬で埋まった。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さらに見れば、川向こうから三方みかたはらのおちこちには、いつか、秋霜しゅうそうのごときやりと刀と人影ひとかげをもって、完全な人縄ひとなわり、遠巻とおまきに二じゅうのにげ道をふさいでいる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吹鳴すいめいの合図を果しながら、なおその中に秋霜しゅうそうの陣気がなければならない。進むに、死をえしめ、退くに、乱れなきよう、粛たるものを感じさせなければならない。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その父は、秋霜しゅうそうのように、厳格一方な人物だった。武蔵は幼少にわかれた母ばかりがしたわしくて、父には、甘える味を知らなかった、ただ煙たくて恐いものが父だった。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
徳川家に臨んだ者は、秋霜しゅうそうのごとき三河武士の軍紀と、ゆるみなき緊張にむすばれている組織力と、そして家康の、依然むかしを忘れぬ質実な風に打たれるということを。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとたび、信長の征馬行くところは、秋霜しゅうそうの軍令と、罰殺ばっさつの徹底に、草木も枯れる概がある。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、石舟斎のおもてを仰ぐのも胸の痛むここちがした。平常ふだん秋霜しゅうそうのようにきびしいが、実は、世の親の誰よりも子には甘い煩悩をも一面に持っていることをみなよく知っているからだった。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秋霜しゅうそう身を持し、また将軍にもそのまま、刃びきの刀をもって、遠慮なしに稽古けいこをつけたりした小野一刀流は、自然、まれ避けられ、次郎右衛門その者の人間まで、知らず知らず遠ざけられて
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頼朝は今、ここ生涯の門立ち、死にもの狂いの気と、秋霜しゅうそうの軍律をもって臨んでおり申せば、自然おごそかに過ぐるとも、微塵みじん、日頃の私情や妥協は持ち合わさぬが——ようその軍律にお伏しあったぞ。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
決死の秋霜しゅうそうのごときものがある。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)