瞿麦なでしこ)” の例文
瞿麦なでしこの花をえると天人が降りるということを聞いて、庭にその種子をいて見ると、果して天人が降りて来て水に浴して遊んだ。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
軒の柳、出窓の瞿麦なでしこ、お夏の柳屋は路地の角で、人形町どおりのとある裏町。端から端へ吹通す風は、目に見えぬ秋の音信おとずれである。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
所謂七種は胡枝花はぎすゝきくず敗醤花をみなへし蘭草ふぢばかま牽牛花あさがほ瞿麦なでしこである。わたくしの嘗て引いた蘭の詩二首の一は此七種の詩中より取つたものである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
瞿麦なでしこの種をとろうとしましたら、根がすっかり無くなっておりました。それから呉竹も一本倒れました、よく手入れを
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
又「浅間嶽面影双紙」の時鳥といふ浅間家の妾が、瞿麦なでしこといふ老女に殺されるのだが、その時鳥を菊五郎がすれば、瞿麦は団十郎が勤めるといふやうなものである。
役者の一生 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
巻二(一九六)の人麿の歌に、「春べは花折り揷頭かざしし、秋たてば黄葉もみぢば揷頭かざし」とある如く、梅も桜も萩も瞿麦なでしこも山吹も柳も藤も揷頭にしたが、檜も梨もその小枝を揷頭にしたものと見える。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
髪の長さはあこめたけに二三寸足りない程なのが、瞿麦なでしこ重ねの薄物の袙を着、濃いはかまをしどけなく引き上げて、問題の筥を香染めの布に包み、紅い色紙いろがみに絵を書いた扇でさし隠しながら出て来たので
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「はぎの花をばな葛花くずばな瞿麦なでしこの花、をみなへし又藤袴ふぢばかま朝貌あさがほの花」である。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「寿南畝大田先生七十。避世金門一老仙。却将文史被人伝。詼諧亦比東方朔。甲子三千政有縁。」詩は梅を詠ずる作と瞿麦なでしこを詠ずる作との間にはさまつてゐる。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
又「浅間岳面影双紙」の時鳥という浅間家のめかけが、瞿麦なでしこという老女に殺されるのだが、その時鳥を菊五郎がすれば、瞿麦は団十郎が勤めるというようなものである。
役者の一生 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
六月だから瞿麦なでしこでも飾るだろうという空想の、やや自然であったこともうなずかれる。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
程谷駅中より左に折れ、金沢道にかかる。肩輿二を倩ひ、三里半の山路屈曲高低を経歴す。左右瞿麦なでしこ百合の二花紅白粧点す。能見堂眺望不待言。樹陰涼爽可愛。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
庭に瞿麦なでしこえると天人が降りて来るということを、人に教えられて試みたという発端も、信州だけにある珍しい例のように見えるが、さがせばこれにやや近いものが他の土地にもある。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)