真前まんまえ)” の例文
旧字:眞前
敏捷すばやい事……たちま雪崩なだれ込む乗客の真前まんまえに大手を振って、ふわふわと入って来たのは、巾着きんちゃくひだの青い帽子を仰向あおむけにかぶった、膝切ひざきりの洋服扮装いでたちの女で
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
正面の入口の真前まんまえには、玉蜀黍をいている一人の少女のまわりに、おびただしい鳩の一群が集っていて
幻滅 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
しつかりした跫音が彼女の真前まんまえにとまるとはじめて劉子は顔を上げて、きつぱりした態度で伊曾をまともにた。そのひとみほとんど彼等の恋愛を詰問するかの様に智によつて澄みかへつてゐた。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
ちなみに西洋婦人がオルガンをいた。丁度私の真前まんまえだったから、私は好奇心をもって眺めた。西洋人の女というものは郷里くにで二三度見かけたばかりだった。その一人は顔に網を張っていた。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
また的皪てきれきと春に照る梅を庭に植えた、また柴門さいもん真前まんまえを流れる小河を、垣に沿うてゆるめぐらした、家を見て——無論画絹えぎぬの上に——どうか生涯しょうがいに一遍で好いからこんな所に住んで見たいと
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時たまたま話しに来た人は、昔馴染の金心異きんしんいという人で、手に提げた折鞄おりかばんを破れ机の上に置き、長衫ながぎを脱ぎ捨て、わたしの真前まんまえに坐した。犬を恐れるせいでもあろう。心臓がまだおどっている。
「吶喊」原序 (新字新仮名) / 魯迅(著)
そうして海を真前まんまえに控えた高い三階の上層の一室に入った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)