盤台はんだい)” の例文
旧字:盤臺
魚屋さかなやが人家の前に盤台はんだいをおろして魚をこしらえている処へ、鳶が突然にサッと舞いくだって来て、その盤台の魚や魚のはらわたなぞを引っ掴んで
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
日本橋の実家からは毎日のおやつと晩だけの御馳走ごちそうは、重箱と盤台はんだいで、その日その日に、男衆が遠くを自転車で運ぶんです。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その新聞をもらって腹掛のなかへねじこむとそのまゝ、空の盤台はんだいを引ッかつぎの……というのは、その日酷いシケの日でさかなは何にもなかった。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
さかなは長浜の女が盤台はんだいを頭の上に載せて売りに来るのであるが、まだ小鯛こだいを一度しか買わない。野菜がうまいというので、胡瓜きゅうりや茄子ばかり食っている。酒はまるでまない。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
顔を洗いに降りてゆくと、台所には魚屋が雪だらけの盤台はんだいをおろしていて、彼岸に這入はいってからこんなに降ることはめずらしいなどと話していた。
雪の一日 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
盤台はんだいをどさりと横づけに、澄まして天秤てんびんを立てかける。微酔ほろえいのめ組の惣助。商売あきない帰途かえりにまたぐれた——これだから女房が、内には鉄瓶さえ置かないのである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鉄道馬車は今よりとどろめて、朝詣あさまいりの美人を乗せたる人力車が斜めに線路を横ぎるも危うく、きたる小鰺こあじうる魚商さかなや盤台はんだいおもげに威勢よく走り来れば
銀座の朝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
またこれがその(おう。)の調子で響いたので、お源が気をんで、手を振っておさえた処へ、盤台はんだいを肩にぬいと立った魚屋は、渾名あだなを(め組)ととなえる、名代の芝ッ
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
土地の商人あきんどを相手になにか買物でもしているらしいので、僕はなに心なく覗いてみると、商人は短い筒袖に草鞋ばきという姿で、なにか盤台はんだいのようなものを列べていた。
山椒魚 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
土間どまは一面の日あたりで、盤台はんだいおけ布巾ふきんなど、ありったけのもの皆濡れたのに、薄く陽炎かげろうのようなのが立籠たちこめて、豆腐がどんよりとして沈んだ、新木あらきの大桶の水の色は、うすあお
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)