田舎訛いなかなま)” の例文
旧字:田舍訛
クリストフのくつの大きいこと、服の醜いこと、ほこりをよく払ってない帽子、田舎訛いなかなまりの発音、可笑おかしなお辞儀の仕方、高声のいやしさ
苦学生に扮装したこの頃の行商人が横風おうふうに靴音高くがらりと人のうち格子戸こうしどを明け田舎訛いなかなまりの高声たかごえに奥様はおいでかなぞと
その声は田舎訛いなかなまりの言葉であるけれども、なんとも言えぬ慈愛に富んでいる声でありました。それを聞きつけると子供はもう嬉しそうに飛びかかって
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「田舎ッぺ、宝ッぺ、明神さまの宝ッぺ。」と、よく近所の子供連にはやされていたお庄の田舎訛いなかなまりが大分れかかるころになっても、父親の職業はまだ決まらなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼女の言葉は四五年前のように「それは」を S-rya と発音する田舎訛いなかなまりを改めなかった。お鈴はこの田舎訛りにいつか彼女の心もちも或気安さを持ち出したのを感じた。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ご存じの如くひどい田舎訛いなかなまりなので、その新入生たちにまじって、冗談を言い合う勇気もなく、かえってひがんで、孤立を気取り、下宿も学校から遠く離れた県庁の裏に定めて
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
亢奮かうふんしたせいか、少しばかり直りかけた田舎訛いなかなまりが、すっかり生地きじを出してしまいます。
判官三郎の正体 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
それが私にはなんだかわかりにくい田舎訛いなかなまりで喋舌られているかのように思えた。
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
こまかい鉛筆書きの、仮名や当て字沢山の、ひどい田舎訛いなかなまりのある、文章そのものが、已に一種異様な感じを与えるものであったが、読者の読み易い為に、文章に手を入れて訛りを東京言葉に直し
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私もまた自分の言葉の田舎訛いなかなまりにはかねがね苦労させられているので、他人のそんな気持には敏感に同情できて、そのせいもあって、特に痛々しいなどと感じたのかも知れなかった。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そうなると、恋愛小説の会話もどきの、あれほど流暢りゅうちょうな都会弁も、すっかり田舎訛いなかなまき出しになって、お品の悪い言葉も薄いくちびるいて、それからそれへと果てしもなく連続するのであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)