甘美かんび)” の例文
言うに言われぬ甘美かんびなもの、いわば女性的なもの……に対する、半ば無意識な、はじらいがちの予感が、ひそんでいたのだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
その刹那から、己の目の前には、現実の世界が消えてしまって、燦爛さんらんたる色彩と、妖艶ようえんなる女神めがみと、甘美かんびなる空気との世界ばかりが見えて居た。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
じりじりと照りつける陽の光と腹匍はらばいになった塚の熱砂の熱さとが、小初の肉体を上下からはさんで、いおうようない苦痛の甘美かんびに、小初をおとしいれる。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
とにかくも不思議に甘美かんびそそる香りが僕の鼻をうったものだから、思わず僕は眩暈めまいを感じて頭へ手をやった。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
汝等なんじらつまびらかに諸の悪業あくごうを作る。あるい夜陰やいんを以て小禽しょうきんの家に至る。時に小禽すでに終日日光に浴し、歌唄かばい跳躍ちょうやくして疲労ひろうをなし、唯唯ただただ甘美かんび睡眠すいみん中にあり。汝等飛躍してこれをつかむ。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
多分嚴肅過ぎるが音樂のやうな甘美かんびな考へ——『あなたと暮らすといふ希望を持つてゐることは輝かしいことだと思ひます、エドワァド、私はあなたをお愛し申してゐるのですもの。』
その飯には、杏の味の甘美かんびさが、まだ残っている気がしたのでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
甘美かんびな衝撃と感動が、一瞬五郎の全身をつらぬいた。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
(その銀のすずるような声のひびきは、何かこう甘美かんびな冷たい感じをなして、わたしの背筋を走った)——「ねえ、あなたをそう呼んでもいいでしょう?」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
汝等なんじらつまびらかに諸の悪業を作る。あるい夜陰やいんを以て小禽しょうきんの家に至る。時に小禽すでに終日日光に浴し、歌唄かばい跳躍ちょうやくして疲労をなし、唯唯ただただ甘美かんび睡眠すいみん中にあり、汝等飛躍してこれをつかむ。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
焦熱しょうねつ地獄じごくのような工場の八時間は、僕のような変質者にとって、むしろ快い楽園らくえんであった。焼け鉄のっぱい匂いにも、機械油の腐りかかった悪臭にも、僕は甘美かんびな興奮をそそられるのであった。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたしはちょっと椅子に掛けたが、それなり魔法まほうにでもかかったように、長いことすわったままでいた。その間に感じたことは、実に目新しい、実に甘美かんびなものだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
汝等つまびらかに諸の悪業あくごうを作る。あるい夜陰やいんを以て小禽しょうきんの家に至る。時に小禽すでに終日日光に浴し、歌唄かばい跳躍ちょうやくして疲労をなし、唯唯ただただ甘美かんび睡眠すいみん中にあり、汝等飛躍してこれをつかむ。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)