牛車くるま)” の例文
月輪つきのわの里まで送って行くつもりであったが、姫を乗せた牛車くるまが四、五町行くと、彼方かなたから一団のほのおと人影とが駈けてくるのと出会った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青糸毛あおいとげ牛車くるまが三井寺の門前にしずかに停まると、それより先きに紫糸毛の牛車が繋がれていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「その玉日様ならば、これからお館へお送りしようと考えてこれまで参ったところです。おつつがなく、牛車くるまのうちにおいで遊ばされる」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほどなく、水鳥亭の灯はひそまり、散会の人影や輿や牛車くるまが、人目立たぬほどずつ、京の夜更けを散らばって行った。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わらだの、牛車くるまの輪だの、牛の糞だのが、いっぱいに散らかっている。南宗寺の使いは驚いた顔したが、城太郎はもう客を置いて彼方あなたへ駈け出していた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかもここの当主夫妻はつい昨日かおとといの昼、牛車くるまを打たせて本能寺へ信長を訪ねてもいる。信長とは長年昵懇じっこん近衛前久このえさきひさが住んでいるのだった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いそいで行ったら追いつこうもしれぬ。ようお詫びしておいてくれい」性善坊はふたたびちまたへもどって往来ゆきき牛車くるまの影に注意しながら駈けて行った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『お。……ぞ、牛車くるまをよんで来て給もれ。……それから、ひとりは、里親の中御門殿まで、走って、このていを告げて給も。くちおしい……くちおしい』
牛車くるまを降りたところで、入道殿の三男宗盛に会った。宗盛が覚えていてくれるくらいなら——と何かほっとして
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さきに、昇殿しょうでんをゆるされ、位記いきでは、途上の牛車くるまもはばかりない身分である。ふっくらと、ふくら雀のように袖をひらいて、彼は牛車の中であぐらしていた。
「行くと申すになにをはばむ。おれは仮病をつかうなど大の嫌いだ。それよりは牛車くるまの用意でも命じておけ」
彼は、牛車くるまの中で嘆じた。——そう淋しく思う時、ただひとり彼の胸にはしずかのすがたがあった。
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勝手に、牛車くるまはつかうし、召使はこき使う。夜は夜で、いずこの男か、忍んで来る様子も、あるとか無いとか——雑色ぞうしき部屋では、ヘイライどもにもうわさのたねになっている。
それとともに、いかなる貴人の御車みくるまを見たのであろうか。あたふたと、上西門院の、門のまぢかへと、大股おおまたに歩み去った。忠正はそこで、牛車くるまにむかい、礼をしている様子であった。
「いやいや、よそおいは、身ひとりでする。そちは隣の無量寿院むりょうじゅいんへまいって、牛車くるまを拝借してまいれ。——今朝、ここのあるじから申し入れ、先方もおききれずみだ。はやく支度しておけい」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、供奉ぐぶの公卿も、若きはあらかた甲冑かっちゅう弓箭きゅうせんをおびて前線へ出払っていたし——吉田大納言定房が牛車くるまをとばしてさんじたほか、老殿上ろうてんじょう十数人、滝口、蔵人のやからなど、寒々さむざむしいばかりである。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
年暮くれ塗更ぬりかえた牛車くるまを、彼は久しぶりで六波羅へ向けた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「殿。……お牛車くるまの支度な、ととのうてござりまするが」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「その牛車くるま待ッた」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)