片々かたかた)” の例文
「そら死ぬそら死ぬそら死ぬ」と耳のはたささやけば、片々かたかたの耳元でも懐しいかお「もう見えぬもう見えぬもう見えぬ」
学士は病人のひじをつかまえた。そうすると女が、いつものように肘にすがると見せて、片々かたかたの肘をつかまえた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
お延が礼を云って書物をひざの上に置くと、叔父はまた片々かたかたの手に持った小さい紙片かみぎれを彼女の前に出した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
老人は片々かたかたの足を洗ったばかりで、急に力がぬけたように手拭の手を止めてしまった。そうして、濁った止め桶の湯に、あざやかに映っている窓の外の空へ眼を落した。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それをね、けだるそうに、ふらふらとふって、片々かたかた人指ひとさしゆびで、こうね、左の耳を教えるでしょう。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
牝鶏をて来た。虎吉は鳥屋を厩の方へ連れて行って何か話し込んでいる。石田は雌雄めすおすを一しょに放して、雄鶏が片々かたかたの羽をひろげて、雌の周囲まわりを半圏状に歩いて挑むのを見ている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
老人は片々かたかたの足を洗つたばかりで、急に力がぬけたやうに手拭の手を止めてしまつた。さうして、濁つた止め桶の湯に、鮮かに映つてゐる窓の外の空へ眼を落した。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
昔しさる所で一人の客に紹介された時、御互に椅子の上で礼をして双方共かしらを下げた。下げながら、向うの足を見るとその男の靴足袋くつたび片々かたかたが破れて親指の爪が出ている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
結び目の押立おったって、威勢のいのが、弁慶がにの、濡色あかきはさみに似たのに、またその左の腕片々かたかた、へし曲って脇腹へ、ぱツとけ、ぐいと握る、指とてのひらは動くけれども、ひじ附着くッついてちっとも伸びず。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
斜めに吹きかける雨を片々かたかたの手に持った傘でけつつ、片々の手で薄く切った肉と麺麭パンを何度にも頬張ほおばるのが非常に苦しかった。彼は幾たびか其所そこにあるベンチへ腰をおろそうとしては躊躇ちゅうちょした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
片々かたかたが一尺昇れば片々は一尺下がるように運命は出来上っている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)