さは)” の例文
プーンと味噌汁の匂ひがして、お勝手では女房のお靜が、香の物をきる音までが、さはやかに親しみ深く響いてゐるのでした。
ひとりといふ事がどんなにさはやかなものかと、窓外の枝木をふるはせて激しく降る雨に、富岡は、うつとりと眼を向けてみる。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
が、毎日続くさはやかな小春日和の下でポケットがお札でふくれるのは快適だつた。さうした快適な日にはプールの屋上からレコードが拡声器で送られてそこらぢゆうに聞え渡る。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
私は帽子を網棚に上げ、窓枠にひぢもたせ、熱した額をさはやかな風に当てた。胸には猶苦しい鼓動が波立つてゐた。眼を細めて、歯を合せて、襲ひ寄るものを払ひ除けようとしてゐた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
いとさはらかに青みたるあしためざめ、見かへれば
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
さはやかに美しい大自然の
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
きよくすゞしくさはやかに
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
朝の風何ぞさは
人のめかけ——それも五十近い男の玩具になるにしては、あまりにも若く、あまりにもさはやかで、顏を反けたいやうな痛々しさを感じさせるのです。
「はい。さつぱりいたしました。とても、さはやかになりましてございます」
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
十手をヒヨイとかつぐと、八五郎は一とくさりそゝる恰好になるのです。それはこの上もなくさはやかな夏の夜でした。
高木敬太郎と名指なざして訪ねると、道場の入口に現れたのは、二十歳前後の寛達くわんたつな青年武士で、これは妹の茂野によく似た見るから氣持の良いさはやかな若者です。
平次はさう言ひ乍ら、胸をはだけて大川の水面を吹いて來る秋の夜風のさはやかさを享樂するのでした。
鼻の先がつかへるせまい路地の中へも、金粉をき散らしたやうな光が一パイに射して、初夏のさはやかさが、袖にもえりにも香りさう、耳を澄ますと明神の森のあたりで
さういふ聲は、若々しくてさはやかでさへあるのですが、振り返つて聲の主を見ると驚きました。
晴れあがつた五月の空、明神下のお長屋にも、さはやかな薫風くんぷうが吹いて來るのです。
初夏の江戸の町はさはやかに晴れて、本郷臺の若葉はしたゝりさうです。
平次の戀女房のお靜は、お勝手でさはやかに返事をしました。
銭形平次捕物控:167 毒酒 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
響きの音に應ずるやうな、いともさはやかな返事です。
甘美でさはやかな體臭を感じさせる娘でした。