煩累はんるい)” の例文
わたしは生活とその煩累はんるいのがれ、人の言う、夢の世界に隠れ家を求めようとする。わたしは、終夜、帽子を根気よく探す夢を見た。
わが感情の領分に、或る élégiaqueエレジアック な要素があるようにしたって、それがなんの煩累はんるいをなそうぞと、弁護もして見る。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そう見る限り、花袋は人生を煩累はんるいと思っていたにちがいない。それで花袋は旅をしつづけた。かれほどよく歩いたものも少い。
つとめてその煩累はんるいを避け、各自家限りの農業を行おうとして、勢い右申すがごとき能率の高いいわゆる労力省略機械の必要を感じて来たのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
日本の旅館の不快なる事は毎朝毎晩番頭や内儀ないぎの挨拶、散歩の度々に女中の送迎、旅の寂しさを愛するものに取ってはこれ以上の煩累はんるいはあるまい。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
弁信がいることによって、特に愛着と煩累はんるいとを感じたこともないが、弁信がいないことによっても、なんら自分の愛の生命の一片を裂かれたと感じたことはない。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
庸三は葡萄酒ぶどうしゅを一杯ついでもらって、わびしそうにちびちび口にしながら、ほんの輪廓りんかくの一部しかわかっていないその外人の生活を、何かと煩累はんるいの多い自身に引きくらべて思いやっていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それは心身両方面にかなりの負担と煩累はんるいを予想される栄誉の仕事であったが、任命は命令的で辞退を許さず、メンデルスゾーンはようやく衰えた体力で、その重任に当らなければならなかった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
執リテ矻々こつこつ事ニ是レ従フト雖モ俗累ぞくるいちゅうヲ内ニ掣シテ意ノ如クナラズ其間歳月無情ゆきテ人ヲ待タズ而シテ人生寿ヲクル能ク幾時ゾ今ニシテ好機若シ一度逸セバ真ニ是レ一生ノ恨事こんじ之ニ過グルナシ千思せんし万考ばんこうすみやかニ我身ヲ衣食ノ煩累はんるいト絶ツノ策ヲ画スルノ急要ナルヲ見又今日本邦所産ノ草木ヲ図説シテ以テ日新ノ教育ヲ
両隊長はこの事件の責を自分達二人で負って、自分達の命令を奉じて働いた配下に煩累はんるいを及ぼしたくないと、長尾に申し出た。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それ故余は都会生活の煩累はんるいなくしてしかも万事に便宜べんぎな田舎の生活をする事ができるのだ。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
姻戚いんせきの家に冠婚葬祭の事ある場合、これに参与するくらいの事は浮世の義理と心得て、わたくしもその煩累はんるいを忍ぶであろうが、然らざる場合の交際は大抵いとうべきものばかりである。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)