無銘むめい)” の例文
「拙者のは此通り此處にある。中身は無銘むめいの相州物、目貫めぬきは赤銅と金で牡丹ぼたん柄糸つかいとは少し汚れたがそつくり其儘だらう」
亭「へい良いお鑑定めきゝいらっしゃいまするな、恐入りました、おおせの通り私共わたくしども仲間の者も天正助定てんしょうすけさだであろうとの評判でございますが、しい事には何分無銘むめいにて残念でございます」
無銘むめい皓刀こうとう、ふたたび、八相の天に振りかぶって、双眸そうぼうらんらん、四面に構えた。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出し治助どん去月の幾日頃いくかごろだの治助中市と思ひました桃林寺たうりんじ門前の佐印さじるしか三間町の虎公とらこういづれ此兩人の中だと思はれますといへば十兵衞成程々々なるほど/\かうつと十日は治助どんは燒物やきもの獅子しし香爐かうろ新渡しんとさらが五枚松竹梅三幅對ふくつゐ掛物かけもの火入ひいれ一個ひとつ八寸菊蒔繪きくまきゑ重箱ぢうばこ無銘むめいこしらへ付脇差二尺五寸瓢箪へうたんすかしのつば目貫めぬきりようの丸は頭つのふち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
見た人があつて、恐ろしくびて居る上に無銘むめいだが、彦四郎貞宗さだむねに間違ひはない、若し間違ひだつたら、俺のそんといふことにして、現金十兩で買ふがどうだ、といふ話でさ
小刀は日頃の物であったが、大刀は、仕官以後は遠慮して差さなかった例の無銘むめい——しかし肥前長光ひぜんながみつともいわれている——愛刀物干竿ものほしざおを、久しぶりに、その腰間ようかんに、長やかに横たえていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これから先もこの無銘むめいの刀が、幾多の血を吸うべき運命をもつのであろう。法月弦之丞という持主の白骨となる日が来た後も、人手から人手へ転々として、愛慾の血にぬられて行くに違いない。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は、無銘むめい二尺七、八寸の大刀を静かに抜かんとしている。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)