深々ふかぶか)” の例文
しかし彼女はそれを聞くと、もう欲にも我慢がしきれなくなった。そして右の手を深々ふかぶかと帯の間にさし込んだまま立ち上がりざま
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
パーシウスは彼とクイックシルヴァとが隠れている深々ふかぶかと茂った藪まで突き通して見られやしないかと、びくびくものでした。
おっとりした、深々ふかぶかと物をむずかしく考えない、口のはっきり利けない様な様子がM子の最も良い性質を表わして居る。
M子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
思はず深々ふかぶか太息といきつきしが、何思ひけん、一聲高く胸を叩いて躍りあがり、『嗚呼あやまてり/\』。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
おそろしい人だこと、」といひかけて、再びおもてそむけると、又深々ふかぶか夜具やぐをかけた。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
チャイコフスキーの音楽は、その性格に深々ふかぶかと根ざした音楽だからである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
そして学者らしいとでも云ふのか、黙り込むと、深々ふかぶかとした瞳が何を見てゐるのかわからない。梨枝子は、この二人の間で、神妙に畏まつてゐた。が、やがて、父が突然、独言のやうに呟いた。
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
雁首を口にくわえ、こころもち身体を後に反らせるくらい、胸を大きく張って、深々ふかぶかと、一服を吸った。くるりと二つの乳房の張った鳩胸と、妊娠七ヶ月の太鼓腹とが、奇妙な瓢箪のようである。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
ピューッとからッ風が吹いて来ると、オーヴァーのえり深々ふかぶかと立てた。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
昼寐ひるねするともなく椅子いす深々ふかぶか
七百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
その話は、彼が寝ながら、深々ふかぶかと繁った木を仰ぎ見て、秋のおとずれが青葉をことごとく純金のように変えてしまった有様をつくづくと目にとめた結果、頭に浮かんだものだった。
古藤はそれには答えもせずに、五刈りの地蔵頭じぞうあたまをうなだれて深々ふかぶかとため息をした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
葉子はぜいたくな寝台の上に横になって、羽根まくら深々ふかぶかと頭を沈めて、氷嚢ひょうのうを額にあてがいながら、かんかんと赤土にさしている真夏の日の光を、広々と取った窓を通してながめやった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
古藤は静かに葉子の手を離して、大きな目で深々ふかぶかと葉子をみつめた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)