“水松(いちゐ)” の例文
バルタ 最前(さいぜん)、此(この)水松(いちゐ)の蔭(かげ)で居眠(ゐねむ)ってゐますうちに、夢(ゆめ)うつゝに、主人(しゅじん)とさる人(ひと)とが戰(たゝか)うて、主人(しゅじん)が其人(そのひと)をば殺(ころ)したと見(み)ました。
「迷信よ、去れ!」門の傍の黒水松(いちゐ)の木の横にその幽靈が黒く立ち現はれたかのやうに、私は云つた。
この地主殿は刈込んだ水松(いちゐ)や型に嵌つた平場(テレス)を辯護するためにはどんな理窟でも喜んで受入れた、さうしたものはそれまでにも屡々近代的な造園家たちから攻撃されたのだつたから。
わたしの爲に祈つてくれ、翁(おきな)びた水松(いちゐ)の木よ、憐愍(あはれみ)深き木、わたしの悲しい心の悦(よろこび)。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
巡査は右手の棒をあげ、(この国の巡査は剣の代りに水松(いちゐ)の棒を持つてゐるのです。)「おい、君」とその河童へ声をかけました。僕は或はその河童は逃げ出しはしないかと思つてゐました。
河童 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
陶標春をつめたくて、 水松(いちゐ)も青く冴えそめぬ。
文語詩稿 一百篇 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
あの水松(いちゐ)の下(した)で、長々(なが/\)と横(よこ)になって、此(この)洞(ほら)めいた地(ち)の上(うへ)に直(ひた)と耳(みゝ)を附(つ)けてゐい、穴(あな)を掘(ほ)るので、土(つち)が緩(ゆる)んで、和(やはら)いでゐるによって、踏(ふ)めば直(すぐ)に足音(あしあと)が聞(きこ)えう。
背後に傷(いた)んだ樅(もみ)の並木があり、そして前には樹立した水松(いちゐ)と冬青(もち)の藪のある野原のやうな土地が少し許りあるこの崩れかけた屋敷だけだといふ事が分つたのですから。
死より生れて、死の僧となつた水松(いちゐ)の木よ、おまへの枝は骨だ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
私は手探りをつゞけた、するとまた何か白つぽいものが私の前に光つた。門——小さな門であつた。押してみると蝶番(てふつがひ)が開いた。黒つぽい茂みが兩側にある——冬青(もち)か水松(いちゐ)らしい。
黒葉(くろば)水松(いちゐ)の木下闇(このしたやみ)に
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)