毫末ごうまつ)” の例文
そして毫末ごうまつといえども犯人たるの証跡はないのだ。彼の犯人ならざることを、誰よりも明瞭に知っていたのはお前ではなかったか。
偽悪病患者 (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
閣下の外交方針が依然として旧套きゅうとうを脱せず、×国に対する戦争の危機を緩和せんとする努力を毫末ごうまつも示さざるのみならず
鉄の規律 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
ここがはなはだつかしい誤解しやすいところですから、よく注意を願います、吾々とてその新しい珍らしい変化とか新思想を毫末ごうまつも嫌うのではない
子規と和歌 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
しかしながら経済は本来各国民の自由競争にまかすべきものであって、これに毫末ごうまつも政治的術策を加味すべきでない。
永久平和の先決問題 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
それから又灑脱しゃだつが一変して時々下品に見えることもあるが、老師にはこの下品に類した風采は毫末ごうまつもなかった。
敝履へいりの如く棄て去るのが多いものであるが、独りソクラテスに限っては、こういう不始末が毫末ごうまつもなかった。
ソクラテス (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
本来醜美は自身の内に存するものにして、毫末ごうまつも他に関係あるべからず。いやしくも我が一身の内に美ならんか、身外しんがい満目まんもくの醜美は以て我が美を軽重けいちょうするに足らず。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
最早某が心に懸かり候事毫末ごうまつも無之、ただただ老病にて相果て候が残念に有之、今年今月今日殊に御恩顧をこうむり候松向寺殿の十三回忌を待得まちえそろて、遅ればせに御跡を奉慕したいたてまつり候。
これは歴史上の事実を見ても現在の状態を見ても、きわめて明らかに知れることで、人類の生存競争もこの階級まで押し詰めてくると、虎や狼の咬み合い殺し合いと毫末ごうまつも違わぬ。
人類の生存競争 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
神尾が今日、人を斬ったのは、毫末ごうまつも先方が無礼の挙動をしたからではない。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかしながら有体ありていに言えば、私の貧弱なる知識では、この説の前半の当否を、批判することが出来ぬのである。何となれば私はアッシリヤに関しては、毫末ごうまつの知識だに有していぬからである。
獅子舞雑考 (新字新仮名) / 中山太郎(著)
あの召使バトラーには毫末ごうまつの嫌疑もない——といって、その姓名さえも聞こうとはしないのだから、当然結論の見当が茫漠となってしまって、この一事は、彼が提出した謎となって残されてしまった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ここは毫末ごうまつの不純なるものなき、まったくの詩と美と純情と夢との世界であり、かくのごとき世界においては我らの持つ欧州風の常識なるものもまた極めて不純なるべきものでありましょう。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
しかしながら、彼は資性剛毅の人であったこととて、新政を行うにも甚だ峻厳を極めて、いやしくも命に違う者は毫末ごうまつも容赦するところなく、厳刑重罰をもって正面よりこれを抑圧したのであった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
しかし美麻奈姫にはそういう点は、毫末ごうまつといえども見られなかった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あべこべにこっちの懐中ふところからいくらか出してバラまいてやったとて毫末ごうまつも差し支えないというような嬉しい気ッ風が骨身にまで侵み込んでしまっている次郎吉のようなものにとって、この儲かるとか
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
またたまたまかかる人がありとするも、主人側は彼らを侮辱する意志はむろん毫末ごうまつもない。むしろこういう人々のためにかえって便利なりと思えばこそ門を粗末に造ったのである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そして、目的は、相手を負かそうとか、自分の主張をあくまでもとうそうとか、そういう浅薄な野心は毫末ごうまつもない。ただ自分を忘れて、道のために議するというふうの態度がありあり見える。
ソクラテス (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)