歩行あゆ)” の例文
大跨おおまたに下りて、帽を脱し、はたと夫人の爪尖つまさきひざまずいて、片手を額に加えたが、無言のまま身を起して、同一おなじ窓に歩行あゆみ寄った。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仰有おつしやつたが、御手おんて錫杖しやくぢやうをづいとげて、トンとろしざまに歩行あゆらるゝ……成程なるほど御襟おんゑり唾掛よだれかけめいたきれが、ひらり/\とれつゝらるゝ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
呼吸いきを殺して従いくに、阿房あほうはさりとも知らざるさまにて、ほとんど足を曳摺ひきずる如く杖にすがりて歩行あゆけり。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大膚おおはだぎをたれ一人目にとめる者も無く、のさのさとがま歩行あゆみに一町隣りの元大工町へ、ずッと入ると、火の番小屋が、あっけに取られた体に口を開けてポカンとして、散敷いた桜の路を
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
車馬しゃばの通行をめた場所とて、人目の恥に歩行あゆみも成らず、——金方の計らひで、——万松亭ばんしょうていと言ふみぎわなる料理店に、とにかく引籠ひっこもる事にした。紫玉はただ引被ひっかついで打伏うちふした。が、金方きんかたは油断せず。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
車馬の通行を留めた場所とて、人目の恥に歩行あゆみもならず、——金方きんかたの計らいで、——万松亭ばんしょうていというみぎわなる料理店に、とにかく引籠ひっこもる事にした。紫玉はただ引被ひっかついで打伏した。が、金方は油断せず。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)