ただ)” の例文
その人に向ひてはほとほと言尽いひつくして心残こころのこりのあらざる如く、ただこれにりて欲するままの夢をも結ぶに似たる快きを覚ゆるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
小杜こもりの蔭に潜んでのぞきいると、暫時して妍華超絶ただに別嬪どころでなく、真に神品たる処女、多人数諸方より来り集い、全く露形して皎月こうげつ下に身を洗う。
此ノ集ただ巻首ニ於テ自ラ千古寸心ノ四字ヲ書シ。人ニ一序ヲ乞ハズ。頗ル名貴ノ気有リ。〕となしている。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ただに日本、支那地方に生ずるのみならず、印度にもあり、「ジャバ」島にもあり、「フㇶリッピン」島にもあり、安南にもあり、「ニューカレドニア」島にもあり、「マダガスカル」島にもあり
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
かかるひまにも常はただ一毛に値する一秒の壱銭乃至ないし拾銭にも暴騰せる貴々重々ききちようちようの時は、速射砲を連発つるべうちにするが如く飛過とびすぐるにぞ、彼等の恐慌は更に意言こころことばも及ばざるなる。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この日よ、このゆふべよ、けて床盃とこさかづきのそのおよびても、あやしむべし、宮は決して富山唯継をつまと定めたる心は起らざるにぞありける、ただこの人をつまと定めざるべからざる我身なるを忘れざりしかど。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)