欞子れんじ)” の例文
と客の前から、いきなり座敷へ飛込んで、突立状つったちざまゆびさしたのは、床の間わきの、欞子れんじに据えた黒檀こくたんの机の上の立派な卓上電話であった。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほとんど毎夜のように上京かみぎょうの方から遠い道を電車に乗って出て来ては路次の中に忍んで、女の欞子れんじの窓の下にそっと立っていた。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
その姿をさがしても見当らず、がっかりして帰って来た春桃が見つけたのは、窓の欞子れんじに自分の体をつり下げている李茂であった。彼は息をふきかえした。
春桃 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
時節は五月雨さみだれのまだ思切おもいきり悪く昨夕ゆうべより小止おやみなく降りて、欞子れんじもとに四足踏伸ばしたるねこものうくしてたんともせず、夜更よふけて酔はされし酒に、あけ近くからぐつすり眠り
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
上から呼ぶ声がするので見あげると、お定も二階の欞子れんじから覗いていた。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ただそれよりもしおらしいのは、お夏が宿の庭に咲いた、初元結はつもとゆいの小菊の紫。蝶の翼の狩衣かりぎぬして、欞子れんじに据えた机の前、縁の彼方あなたたたずむ風情。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ベルが鳴ってから電気を附けたと見えて、玄関のわき欞子れんじの硝子にぱっと明りが映ったのであった。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
床なる花瓶の花もしぼまず、西向の欞子れんじもとなりし机の上も片づきて、すずりふたちりもおかず、座蒲団ざぶとんを前に敷き、かたわらなる桐火桶きりひおけ烏金しゃくどう火箸ひばしを添えて、と見ればなかに炭火もけつ。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
のぞきはしないが、小窓、欞子れんじに透いて見える、庭背戸には、萩の植込、おしろいの花。屋根越の柳の青い二階も見えた。あれは何の謎だろう。矢羽の窓かくしの前に、足袋がずらりと干してある。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)