檜木笠ひのきがさ)” の例文
生活の資本もとでを森林に仰ぎ、檜木笠ひのきがさ、めんぱ(割籠わりご)、お六櫛ろくぐしたぐいを造って渡世とするよりほかに今日暮らしようのない山村なぞでは
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あッと抜くと、右の方がざくりと潜る。わあともがきに掙く、檜木笠ひのきがさを、高浪が横なぐりになぐりつけて、ヒイと引く息に潮を浴びせた。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その上へ茣蓙ござを付し、檜木笠ひのきがさを被っているのだから「どうも御気の毒様で」といわれたのも無理はない。
或る時、壬生の新撰組のたむろの前へ、みすぼらしい坊主が、一蓋いちがい檜木笠ひのきがさを被って、手に鉄如意てつにょいを携えてやって来て、新撰組の浪士たちが武術を練っている道場を、武者窓からのぞいていました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ものゝふの矢なみつくろふ小手こての上に霰たばしる那須の篠原」という実朝の歌は、殆ど森厳しんげんに近いような霰の趣である。芭蕉は身に親しく霰を受けて「いかめしき音や霰の檜木笠ひのきがさ」とんだ。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
同じ木曾で飯田いいだにぬける山街道にあららぎと呼ぶ小さな村があります。「檜木笠ひのきがさ」を編むので名がありますが、それよりこの村で面白い漆器の片口を作ります。珍らしくも口も共に一木からり出します。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
いかめしき音やあられ檜木笠ひのきがさ 芭蕉
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
という継母にも、女の子のおくめを抱きながら片手に檜木笠ひのきがさを持って来てすすめる妻にも別れを告げて、やがて半蔵は勇んで家を出た。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
角の電信柱の根をじて、そこに積んだ材木の上へ、すっくと立ってあらわれた、旅僧の檜木笠ひのきがさは、両側の屋根より高く、小山のごとき松明の炎に照されたが、群集の肩を踏まないでは
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
翌朝、佐吉はだれよりも一番早く起きて、半蔵や寿平次が目をさましたころには、二足の草鞋わらじをちゃんとそろえて置いた。自分用の檜木笠ひのきがさ天秤棒てんびんぼうまで用意した。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
尾張の家中は江戸の方へ大筒おおづつの鉄砲を運ぶ途中で、馬籠の宿の片側に来て足を休めて行くところであった。本陣や問屋の前あたりは檜木笠ひのきがさや六尺棒なぞでうずめられた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこで造らるる檜木笠ひのきがさにおいと、石垣いしがきの間を伝って来る温暖あたたかな冬の清水しみずと、雪の中にも遠く聞こえる犬や鶏の声と。しばらく半蔵らはその山家の中の山家とも言うべきところに足を休めた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
夏のさかりのことで、白い着物に白いうしろはち巻き、檜木笠ひのきがさを肩にかけ、登山のつえをついた御岳参りの人たちが、腰の鈴を振り鳴らしながら、威勢よく町へくりこんでくるところでした。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)