朝涼あさすず)” の例文
京にのぼる供は二十人くらい、虫の垂衣たれぎぬおおうた馬上の女のすがたは、遠目にも朝涼あさすずの中で清艶せいえんを極めたものであった。
「こういう時にこそ、かえって一時のお疲れが、どっと出ぬでもありませぬ。なるべく朝は朝涼あさすずのまに、お道をすすめ、京もはやとて、おいそぎなく」
と、いいながら、私は、久しぶりで口に馴れたお前の手でけた茄子なす生瓜きゅうりの新漬で朝涼あさすずの風に吹かれつつ以前のとおりに餉台ちゃぶだいに向い合って箸を取った。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
朝涼あさすずのうちに、関井さんの夫婦はわたくしを近所の森の中や川端へ案内してくれました。東京より十度以上は違うと三津子さんのいったのも嘘ではありません。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
朝涼あさすずの内に支度が出来て、そよそよと風が渡る、袖がひたひたとかいななびいて、引緊ひきしまった白の衣紋着えもんつき
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朝顔の花一ぱいにたまる露の朝涼ちょうりょう岐阜ぎふ提灯ちょうちんの火も消えがちの風の晩冷ばんれい、涼しさを声にした様なひぐらし朝涼あさすず夕涼ゆうすずらして、日間ひるまは草木も人もぐったりとしおるゝ程の暑さ、昼夜の懸隔けんかくする程
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
まだ朝涼あさすずの間に帰ろうとして院は早くお起きになった。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
なるべく朝涼あさすずのうちに行って来ようというので、ふたりは明け六つ(午前六時)頃から江戸川端の家を出て、型のごとくに墓参をすませて、住職にも逢って挨拶をして
離魂病 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「お許婚いいなずけ……?」「いや、」一葉女史の墓だときいて、庭の垣根の常夏とこなつの花、朝涼あさすずだからしぼむまいと、朝顔を添えた女の志を取り受けて、築地本願寺の墓地へ詣でて、夏の草葉の茂りにも
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いわゆる朝涼あさすずに乗じて、朴歯ほおばの下駄をからから踏み鳴らしながら行った。
寄席と芝居と (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お藤は努めて朝涼あさすずのうちに家を出ることにしていた。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)