春日燈籠かすがどうろう)” の例文
末造の据わっている所からは、二三本寄せて植えた梧桐あおぎりの、油雑巾で拭いたような幹が見えている。それから春日燈籠かすがどうろうが一つ見える。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
つき景趣けいしゅをちぢめたような庭作り、おかありはしあり流れあり、ところどころには、がまのような石、みやびた春日燈籠かすがどうろうが、かすかにまたたいていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
庭の清潔きれいなこと、赤松の一と抱えもあるのがあり、其の下に白川御影しらかわみかげ春日燈籠かすがどうろうがあり、の木の植込うえご錦木にしきゞのあしらい、下草の様子、何やかや申分もうしぶんなく
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
前に出ている薄暗い春日燈籠かすがどうろうや門燈もスウィッチを切られ、町は防空演習の晩さながらの暗さとなり、十一時になるとその間際まぎわの一ト時のあわただしさに引き換え
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
春日燈籠かすがどうろうをつつんで、薄の穂が白くに映る。その奥の暗い葉蔭に、何やら笠をかぶった黒いものが立っていて、ひょろひょろと動くのが、ふと目に着いてから気にかかった。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
春日燈籠かすがどうろうや、いろ/\と少年の心をおびえさすような姿勢を取った黒い物が、小さい瞳の中へ暴れ込んで来るので、私は御影の石段に腰を下し、しん/\と夜気のしみ入る中に首をうなだれた儘
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
玉垣たまがきを照らしている春日燈籠かすがどうろう灯影ほかげによく見ると、それこそ、裾野すその危地きちを斬りやぶって、行方ゆくえをくらました木隠龍太郎こがくれりゅうたろうと、武田伊那丸たけだいなまるのふたりであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかもそこは、善美をつくした庭作り、おかあり池泉ちせんあり馥郁ふくいくと咲く花あり、書院茶室の結構はいうまでもなく、夜を待つ春日燈籠かすがどうろうの灯が、早くもここかしこにまたたいている。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)