旅店りょてん)” の例文
この時根津ねづ茗荷屋みょうがやという旅店りょてんがあった。その主人稲垣清蔵いながきせいぞう鳥羽とば稲垣家の重臣で、きみいさめてむねさかい、のがれて商人となったのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
旅人は今夜は羽生の町の梅沢という旅店りょてんにとまるという。清三は町にはいるところで、旅店へ行く路を教えてやって、田圃たんぼの横路を右に別れた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
快くうなずいて、北陸地方を行脚あんぎゃの節はいつでもつえを休める香取屋かとりやというのがある、もとは一けん旅店りょてんであったが、一人女ひとりむすめの評判なのがなくなってからは看板をはずした
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一同は一足お先に那河川なかがわに架けたる橋を渡り、河畔の景色けいしょくき花月旅店りょてんに着いて待っていると、もなく杉田先生得意満面、一行の荷物を腕車わんしゃに満載してやって来た。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
ライスカレー 秋 第二百十五 旅店りょてんの衛生
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
沢はざるに並んだ其の柿を鵜呑うのみにしたやうに、ポンと成つた——実は……旅店りょてんの注意で、暴風雨あらし変果かわりはてた此のさき山路やまみちを、朝がけの旅は、不案内のものに危険けんのんであるから、一同のするやうに
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
第二百十五 旅店りょてんの衛生
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
このとおりは、かれが生れた町とは大分あいだが離れているから、のきを並べた両側の家に、別に知己ちかづきの顔も見えぬ。それでも何かにつけて思出す事はあった。通りの中ほどに、一軒料理屋を兼ねた旅店りょてんがある。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)