新妻にいづま)” の例文
復員者はそこここに戻って来て、崩壊した駅は雑沓してにぎわった。その妻子を閃光せんこうさらわれた男は晴着を飾る新妻にいづまを伴って歩いていた。
火の唇 (新字新仮名) / 原民喜(著)
きょう初めてご邸内をるという新妻にいづまも、娘たちも、また縁類のものも、ことごとく今日はここに集まったかと思われるばかりだった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ブラドンは新妻にいづまのアリスを返り見た。アリスは、なにか気が進まないふうだったが、それでも、嬉しそうににこにこしていた。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
そんなわけで、彼は間もなく、新邸しんていの中にまたもう一つ新しく素晴らしいものを加えた。それは生々なまなましい新妻にいづまであることは云うまでもあるまい。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
花のような自分の新妻にいづまが、不思議の縁の糸に引かれて、天上からでも降りて来るような感じもあった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼女はどこまでも優しい新妻にいづまであり、普通の女らしい細君であったが、信州の山里から出て来たのは
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
と一人めにして、その上に、新妻にいづまを後妻になれ、後妻にする、後妻の気でおれ、といけ洒亜々々しゃあしゃあとして、髪を光らしながら、鰌髭どじょうひげの生えた口で言うのは何事でしょうね。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新妻にいづまの事でも想像して魂がもぬけたな」一人がフランシスの耳に口をよせて叫んだ。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
美人の妻を持っているので、有名な小早川伯爵が来たとき、勝平は同伴した伯爵夫人を、自分の新妻にいづまと比べて見た。伯爵夫妻が、会釈えしゃくして去った時、勝平の顔には、得意な微笑が浮んだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
座頭の美しい新妻にいづまが目のない夫のためにわが目を泣きはらそうと、ただ伝六には事件があって、口うるさくお株を始められる機会さえあればいいんですから、前回のへび使い小町騒動以来
おせいさんは少しならず思ひくづをれ候すがたしるく、わかき人をおきてでし旅順りよじゆんの弟の、たび/\帰りて慰めくれと申しこし候は、母よりも第一にこの新妻にいづまの上と、私見るから涙さしぐみ候。
ひらきぶみ (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
朝の別れがおしゅうて出仕に遅れ、それで御番士の役が勤まると思わるるかッ? のみならず、夕御番は両三度ならず欠勤、それも、一夜なりとも新妻にいづまと離れともないと言わるるのじゃろう——いやはや
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そして四日目、初めて、色直しの衣裳にかえて、登子も足利家の北ノ方となった新妻にいづまの身をやっと自分に見るのであった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もちろん家には最近迎えたばかりの新妻にいづまはあり、夫婦生活の味もまだ身にむ間もないころのことだったが、銀子にも嫉妬しっとに似た感情の芽出しはありながら、それを引きとめる手もなく
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
名人がいとわしげに心の進まなかった子細もまたこれがため、よしや求められたことではあろうとも、夫以外に犯してならぬ新妻にいづまのはだをまのあたり見ることが心苦しかったからなのです。
ふと、庄次郎は、新妻にいづまの照子をおもい出した。行儀作法がよくて、文字があって、貞淑で、申しぶんのない良妻が、彼にはどうしても好きになれなかった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
去年の暮とかに、妻をめとったというその新妻にいづまのまめやかさの光りかもしれない。——清盛はうらやましい気もちで、ときどき、渡の口から出る女房自慢など聞かされて、やがて、座を辞した。
お内儀、とんだ客で驚かれたであろう。この客は、あなたの良人へ、生命いのちをすてろと、すすめに来たのだが、なぜか、又四郎はいやだという。……考えればむりはない、あなたのような美しい新妻にいづま
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)