数奇すうき)” の例文
旧字:數奇
また末の姫が、徳川秀忠夫人となって、家光を生んだことなど、戦国数奇すうきの運命のあやは、史によって、人みなのよく知るところである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なじまない父の国にあこがれて来たばっかりに、数奇すうきな運命にもてあそばれている娘……そして今では、ここよりほかに国も家も持たぬ娘……妹と父親のほかには
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
かなり数奇すうきの生涯を体験した政客であり同時に南画家であり漢詩人であった義兄春田居士がこの芭蕉の句を酔いに乗じて詠嘆していたのはあながちに子供らを
思い出草 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ショーソンは近代フランスの彗星的作曲家で、その伝記の数奇すうききわむるがごとく、その作物も変っている。
そして、娘らしい、涙にれた眼で、数奇すうきな運命を訴えるように、叔父の顔を見た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これは余談よだんわたるが、彼れ醤は、日本軍のため、重慶じゅうけいを追われ、成都せいとにいられなくなり、昆明こんめいではクーデターが起り、遂に数奇すうききわめた一生をそこで終るかと思われたが、最後の手段として
希臘ギリシャイオニア列島の一つである地中海の一孤島ことうに生れ、愛蘭土アイルランドで育ち、仏蘭西フランスに遊び米国にわたって職を求め、西印度インド巡遊じゅんゆうし、ついに極東の日本に漂泊ひょうはくして、その数奇すうきな一生を終ったヘルンは
しかしながら、幼少年期の数奇すうきな運命を規定した一つの原理、原理という言葉は異様な用法に見えるかも知れないけれども、幼少の家康にとって、それはあたかも原理の如きものであったと思われる。
家康 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
幼年から数奇すうきな運命は彼の本来の性質の真情を求めるこころを曲げゆがめ、神秘的な美欲や愛欲や智識欲の追躡ついじょうといふやうな方面へ、彼の強鞣な精神力を追ひ込み、その推進力によつて知らぬ間に
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
訪う人も来る人もなく、ただ一基……折しも雲にかくれて晩春の気蕭条しょうじょう! ここに数奇すうきの運命の人眠る。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
お鳥は、その赤い毛と碧い眼が変って居るように、世にも数奇すうきな運命にもてあそばれた女だったのです。
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「気の毒な先生だ。数奇すうき生涯しょうがいだ。」と半蔵は妻に言った。「国学というものに初めておれの目をあけてくれたのも、あの先生だ。あの年になって、奥さんに死に別れたことを考えてごらんな。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そのご生涯は数奇すうきにして薄幸そのものであったというほかはない。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の数奇すうきな運命は幼年の彼に、こんなませた考へをもたせた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)