摺物すりもの)” の例文
中期に及んで永井素岳が独り天下、引札以外新曲の摺物すりものまで自作自画の達者振り、鶯亭金升君も若手の花形で例の自筆を揮った。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
第二篇は歌麿の制作を分類して肉筆及黄表紙きびょうし絵本類の板下はんしたならびに錦絵摺物すりもの秘戯画等となし、各品かくひんにつき精細にその画様と色彩とを説明せり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
香以は鶴寿と謀って追善の摺物すりものを配った。画は蓮生坊れんしょうぼうに扮した肖像で、豊国がかいた。香以の追悼の句の中に「かへりみる春の姿や海老えびから
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
折々隠袋から金縁きんぶち眼鏡めがねを出して、手に持った摺物すりものを読んで見る彼は、その眼鏡をはずさずに遠い舞台を平気で眺めていた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうでなければ、いくら物好きだからといって、米友を相手にこうして、摺物すりものを読んで聞かせるはずがありません。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
招き猫なぞが飾って有るので、何も褒めようが有りませんから、二枚おりの屏風の張交はりまぜを褒めようと思って見ると、團十郎だんじゅうろう摺物すりものや会のちらしが張付けて有る中に
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
黄いろい皮のおもてに薄緑の筋が六、七本ついているその形は、浮世絵師の描いた狂歌の摺物すりものにそのあととどめるばかり。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
職業は奉行所の腰掛茶屋の主人であった。柴田是真は気槩きがいのある人であった。香以とは極めて親しく、香以の摺物すりものにはこの人の画のあるものが多い。是真の逸事にこう云う事がある。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
私の立居たちいが自由になると、黒枠くろわくのついた摺物すりものが、時々私の机の上に載せられる。私は運命を苦笑する人のごとく、絹帽シルクハットなどをかぶって、葬式の供に立つ、くるまって斎場さいじょうけつける。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
秋葉山あきばさんの大燈籠の下で、近藤勇の手紙の摺物すりものを読んでいた二人の浪士と、それを聞いていた宇治山田の米友の三人は、今の鉄砲の音を聞いて、すわとばかりに駈けつけて見たけれど
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
新年の摺物すりもの、例えば俳諧師の三節、謡曲家の勅題小謡、画家の試筆、和歌狂歌の祝詠摺物など、近年はほとんど葉書の賀状に奪われたが、明治時代はもっぱら特別の摺物として知己へ配ったものだ。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
狂歌の流行はここに摺物すりものと称する佳麗なる板物はんもの並に狂歌集絵本類の板刻はんこくを盛んならしむるに及びて、浮世絵の山水画はために長足の進歩をなし得たり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
浪士体の二人は、かえってその手紙の摺物すりものを喜びました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
浮世絵を好む人は蕙斎けいさいや北斎等の描ける摺物すりものに江戸特種の菓子野菜果実等の好画図あるを知っているであろう。
砂糖 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのうしろには二枚折の屏風びょうぶに、今は大方おおかた故人となった役者や芸人の改名披露やおさらいの摺物すりものを張った中に、田之助半四郎たのすけはんしろうなぞの死絵しにえ二、三枚をもぜてある。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
また山水画は『銀世界』及び『狂月望きょうげつぼう』等の絵本において石燕風せきえんふう雄勁ゆうけいなる筆法を示したり。摺物すりものおうぎ地紙じがみ団扇絵うちわえ等に描ける花鳥什器じゅうきの図はその意匠ことに称美すべきものあり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)