)” の例文
あなたが少しもお立ち留りなさらずに、わたくしを引きって、そらけるような生活の真中まんなかへ駈込んでおしまいなさったのですもの。
笑いながら押し合ったりみ合ったりしているうちに、謙譲している男が、引きられて上座じょうざに据えられるのもある。なかなかの騒動である。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
何かこう物語めいた気分の中にられて行くような、胸のしめつけられる程の好い心もちのした事などはこれまでついぞ出逢ったことがなかった。
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
たとえば移住民が船に乗って故郷の港を出る時、急に他郷がこわくなって、これから知らぬ新しい境へ引きられて行くよりは、むしろ此海の沈黙の中へ身を投げようかと思うようなものである。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
女は黙って学士の手を取って、引きるようにして跡へ引き返した。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
その家へ往くには、あなたよほど深くり込むのです。6220
無言の二人は釘抜くぎぬきで釘を挟んだように腕を攫んだまま、もがく男を道傍みちばたの立木の蔭へ、引きって往った。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
まだ薄ら寒い朝の町を、疲れて膝のがく/\するやうな足を引きつて、停車場へ出掛けた。
駆落 (新字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
僕も歯のゆがんだ下駄を引きりながら、田のくろ生垣いけがきの間の道を歩いて、とうとう目的地に到着した。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
猪飼さすがに驚いたが、持前の豪傑気取で、芸者を二人呼んで馬鹿騒ぎをしている席へ、己を無理に引きり上げて、「野暮を言わずにきょうは一杯飲んでくれ」と云って
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
戸川はとうとう引きるようにして富田を連れ出した。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)