掌中しょうちゅう)” の例文
ところで昨夜は手始めに六丁目の桜屋六兵衛に押入り、六兵衛が掌中しょうちゅうたまと可愛がっている一人娘のお美代を殺害して来た。
わが掌中しょうちゅうにしっかり握っていると信じていたわが夫は、はたしてまことの万吉郎であろうか。はたして万吉郎か、それとも万吉郎を模倣した偽者か。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
鎌倉へ下って、高時の前に出さえすれば、高時は掌中しょうちゅうの物だと思う。ご機嫌をとりむすび、あわせて、どんな嫌疑も解いてみせる自信があった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女の心は村川の掌中しょうちゅうに掴まれながら、そのくせふわふわしていた。女性に対して不安を感ずれば感ずるほど、男性の心はきつけられるものだが。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その際お願いしておきますが、あなたにとって大切なお兄さんのごくごく重大な秘密が、完全にわたしの掌中しょうちゅうにあるということを、お忘れなさらないように
到底我掌中しょうちゅうの物でないとすればお嬢さんにもいつそ今帰つてもらつた方がよからう。一度でも二度でも見合つたり話し合つたりするほど、いよいよ未練の種である。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
されば両親も琴女をること掌中しょうちゅうたまのごとく、五人の兄妹達にえてひとりこの寵愛ちょうあいしけるに、琴女九歳の時不幸にして眼疾がんしつを得、いくばくもなくしてついに全く両眼の明を失いければ
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼は絶対に彼女の掌中しょうちゅうにあった。そうして、彼は永久に小さくなりゆく圏内に追い込まれて、ついには、彼が予想さえもしなかった結果を招くような法則に、従わなければならなかった。
自分の掌中しょうちゅうに握っている。——自分は今自ら運命の主人公である。
暴戻ぼうれいな征服者の掌中しょうちゅうにあることを、われわれは知っていた。
ああ、掌中しょうちゅうたまも砕けて散ったか。
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
彼女も、しばらくの間、自分の掌中しょうちゅうで、小鳥らしい自由を楽しむがいゝ。その裡に、男性の腕の力がどんなに信頼すべきかが、だん/\分って来るだろう。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その黄金製品である金貨が、屍体となった赤ブイ仙太の掌中しょうちゅうから発見されたということは、極めて深い意味があるように思われたのだった。それにしても、それが外国金貨とは何ごとだ。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
人々は、色をして、掌中しょうちゅうの珠でも傷つけられたかのような不安をみなぎらした。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、彼の約束手形は、もう京子の掌中しょうちゅうにハッキリと握られているのである。彼女が、その手形の支払いをあらゆる手段で、催促することは当然であった。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そして、掌中しょうちゅうの大敵を逃がしたなどと悔やむ色も狼狽ろうばいもまったくない。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その上つかんでいるはずの倭文子の心が、彼の掌中しょうちゅうでふわふわと動いているような気がした。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)