抛棄はうき)” の例文
彼等かれら幾夜いくよをどつて不用ふようしたときには、それが彼等かれらあるいたみちはたほこりまみれながらいたところ抛棄はうきせられて散亂さんらんしてるのをるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
されど人間なるが故に、人間たる事実を軽蔑けいべつすべからず。人間たる尊厳を抛棄はうきすべからず。人肉をくらはずんば生き難しとせよ。なんぢとともに人肉をくらはん。
しかし私は創造力の不足と平生の歴史を尊重する習慣とに妨げられて、此くはだて抛棄はうきしてしまつた。
椙原品 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
むしろ教会の愚劣と偽善を表白したに過ぎないのだが、驚いたのは鍛工かぢこう組合の挙動だ——先生が梅子さんと結婚なさる為めに、主義を抛棄はうきなさるとは、何と云ふ破廉耻はれんちな言ひ草だ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しかも私は、こんなに私を愛してくれる彼を絶對に尊敬してるのだ。しかも私はこの愛と偶像とを私は抛棄はうきしなければならないのだ。私の切ない義務は寂しい一言に含まれてゐた。——「去れ!」
されど予が身辺の事情は遂に予をして渡英の計画を抛棄はうきせしめ、加之しかのみならず予が父の病院内に、一個新帰朝のドクトルとして、多数患者の診療に忙殺さる可き、退屈なる椅子にらしめをはりぬ。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)