手錠てじょう)” の例文
いや、それよりも、ぼくの手が、手錠てじょうのかわりに、きみの手首をにぎりつづけていたんだからね。手首がしびれやしなかったかい。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「も、もう、いけねえ、こらえられねえ……お役人、小便がしたくなった。ちょっと、手錠てじょうだけゆるめてくれ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
巡査じゅんさは、すばやく起きなおり、威厳いげんをつくろいながら、男に手錠てじょうをはめようとして、なさけない声を出した。
向うからいわれるまでもなく、直ぐさまおのが膝下へ引寄せずにはおかない筈なのだが、しかし手錠てじょうの中に細った歌麿の手首は、じっと組まれたまま動こうともしなかった。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
警察署から手錠てじょうをはめた囚人が二人、巡査に護送されて出てくる。時雨しぐれが囚人の髪にかかる。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
巡査じゅんさ手錠てじょうをかわれて、わたしはおおぜいの目の前を通って行かなければならなかった。
しかしてそは全く遠島えんとうに流され手錠てじょうの刑を受けたる卑しむべき町絵師の功績たらずや。浮世絵は隠然として政府の迫害に屈服せざりし平民の意気を示しその凱歌がいかを奏するものならずや。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そこへ別の入口から、警官に護られて、潮十吉うしおじゅうきち手錠てじょうをガチャガチャ云わせながら入って来て、最前列さいぜんれつに席をとった。そこは、帆村探偵と白丘ダリアとが並んである丁度ちょうどその横だった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いや、挨拶あいさつもあらばこそである。左右からパッと寄った同僚がすばやく彼の両手へ手錠てじょうをかけてしまった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれらは、手錠てじょうやとりなわを持っています。腰のサックには、たまをこめたピストルまで用意しているのです。四十面相がいくら強くても、とてもかなうものではありません。
奇面城の秘密 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかしてそは全く遠島に流され手錠てじょうの刑を受けたる卑しむべき町絵師の功績たらずや。浮世絵は隠然として政府の迫害に屈服せざりし平民の意気を示しその凱歌がいかを奏するものならずや。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
机博士の手をかんたんにうしろへねじり、がちゃりと手錠てじょうをはめてしまった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もっとも手錠てじょうをはめているのだから、出そうと云っても出る気遣きづかいはない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「こいつはいかん、どこへ手錠てじょうをはめればいいんだ、見当けんとうがつかんぞ」
五十日間の手錠てじょう、家主預けときまって、再び己が画室に坐った歌麿は、これまでとは別人のように弱気になって、見舞に来た版元はんもとの誰彼をつかまえては、同じように牢内の恐ろしさを聞かせていたが
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
いや、捕物じゃねえが、この間、大工町の仕出し屋太郎兵衛が失火ぼやを出し、その罪で、五十日の手錠てじょうをくッた。手錠は、微罪だが、もし手錠を自分ではずしたりしたら重罪だ。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)