手掌てのひら)” の例文
却って健康なるを以て、日中は夫婦共に畑に出で鍬鎌を握る為めに、手掌てのひらは腫れ、腰は痛むも、耐忍して怠らず。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
まくらいて初夜しよやぐるころほひより、すこ氣候きこうがゆるんだとおもふと、およ手掌てのひらほどあらうといふ、ぞく牡丹ぼたんとなづくるゆきが、しと/\とはてしもあらず降出ふりだして
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
昨日の雨の名残のみづたまりが路の処々に行く人の姿々を映して居るが、空は手掌てのひら程の雲もなく美しく晴れ渡つて、透明な空気を岩山の上の秋陽あきのひがホカ/\と温めて居た。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
初のうち油断なくかばっていた親鳥も、大きくなるに連れて構わなくなる。石田は雛を畳の上に持って来て米を遣る。段々馴れて手掌てのひらに載せた米をついばむようになる。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
兄は首にかけている箱から二匹の黒と青との蛇を取出して、手掌てのひらの上に乗せると、弟は一種の小さい笛を吹く。兄は何か歌いながら、その蛇を踊らせるのである。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
水面は全く水の動揺を収めてこの事件をすこしも暗指あんじしてゐる様な気色けはひがない。ややしばらくすると、童はつひにむなしく水面に浮上つて来て、しきりに手掌てのひらで顔をでた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
寅二郎も重輔も、手掌てのひら水泡まめがいくつもできた。が、舟は容易に彼らの思う通りにならなかった。内側へ付けようと思ったのが、外洋へ向った波の荒い外側に付いてしまった。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ですから、けっこう暗くなると、お岩の左頬に何ものか、映らなくてはなりますまい。尖った、十一本の刺を持った、手掌てのひら形をしたものと云えば、それはいったい何でしょうかな
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
昨日の雨の名殘りの水潦みづたまりが路の處々に行く人の姿々を映して居るが、空は手掌てのひら程の雲もなく美しく晴れ渡つて、透明な空氣を岩山の上の秋陽あきびがホカ/\と温めて居た。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
手掌てのひらの皮が非常に厚く硬いのを見ると、ある場合には足の働きもして、四つ這いに歩くらしい。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)