あわれみ)” の例文
かれ路頭ろとう乞食こつじきごとく、腰をかがめ、頭を下げて、あわれみを乞えり。されどもなお応ずる者はあらざりしなり。盲人めしいはいよいよ途方とほうに暮れて
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女はすでにおのって、三度彼に手向おうとしていた。が、彼が剣を折ったのを見ると、すぐに斧を投げ捨てて、彼のあわれみうったうべく、床の上にひれ伏してしまった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
打ち明けて都合が悪いとは露思わぬが、進んで同情を求めるのは、うえせまって、知らぬ人の門口かどぐちに、一銭二銭のあわれみを乞うのと大した相違はない。同情はの敵である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それいかりののしりやまざれば約々せわ/\しく腹立はらたつことおおくして家の内静ならず。悪しき事あらば折々言教いいおしえて誤をなおすべし。少のあやまちこらえいかるべからず、心の内にはあわれみほかには行規を堅くおしえて怠らぬ様に使ふべし。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
貴様達は知るまいが……復讐……この恨を晴らすために……晴らすために……ああ愉快だ……俺は復讐のために生きるんだ……俺は貴様達にひざまづいてあわれみを乞わしてやるんだ……地面じべたへ手をつかして……
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
ヴァレリアスかつて書をその友某におくって告げて曰く天下に何事も女子の忍んでなし得ざるものあらず。願わくは皇天あわれみを垂れて、君をして彼等の術中におちいらしむるなかれと。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)